第13話 娘の今を見て決断したその先は
俺は、死んでからてるてる坊主に色々説明されたことを少し咀嚼してみた。
幸せなことに二人も奥さんを貰って合計4人の子供を産んでもらって、生きている間に父親として残してあげられるものなんて何もないまま死んでいったことに、後悔とも違う何か違う感情が芽生えていた。
今は何も食べなくてもいい・・・食べる事すらできないと言った方がいいだろう。
生きていくための三大欲求がすべて抜け落ちている感覚だ。
まぁ、生きていないんだから仕方ないわな。
もう一人の俺は二人目の奥さんのところに記憶をなくして姿を変えて
俺の方はどうしても、病院で見た鶏ガラのような娘がどんな子に成長しているのかが気になって、今の答子の家庭を覗き見したが、
その一か月後すぐに俺の娘は親元を離れて、なんと俺が最期に力果てた千葉県に引っ越し開業した。
器量は答子に少し似ているようだが随分と色っぽく育ったもんだ。
俺が生きていたら叱り倒してでも部屋の中ではカーテンを閉めるなり、服を着るなりしろ!と言っていただろう。
そして、俺にとっては知らない男と同棲し、親の俺では見ていられないほどの夜を過ごしている。
「クソ!あの男さっさと俺の娘と別れやがれ!」と言ったところでどうせ聞こえない。
仕事では鍼灸師なんて珍しい仕事をしているようだ。
そういえば、答子の祖母さんがお灸の先生だとか言ってたこともあったな。
師匠とやらは娘に何一つ教えることなく、モノだけ貸し与えて丸投げで様子を見る事もない。
何故ならば、師匠とやらは俺の娘に振られているからだ。
軌道に乗せるために娘はとりあえず千葉の佐倉なんて、辺鄙な場所で唯一存在するバーに通い詰めてお客さんたちと仲良くなっていった。
それが意外と反応があったようで、閑古鳥のないていた娘の治療院にも着々と患者さんがバー経由で来るようになってとても忙しくなってきた。
しかし、その建物の大家の妻が、俺の娘を良く思っていなかった。
その人が俺の娘と同じで父親を知らずに育ったことに自分を俺の娘に重ねたのだろう。
「父親を知らなくったってね、その父親が死んだら連絡がくるもんなのよ」と娘によく言っていた。
実際死んだ俺から言える事は、俺が死のうが俺の息子たちやこの娘に連絡が行くことはない。
だがこのやり取りを聞いていて、どうやら俺の娘は母子手帳で俺の名前だけ知っているということを仕入れた。
なぜ今まで俺を探そうとはしなかったんだ?
まぁ、それはきっと答子や答子の両親からあまり良くない話を聞かされて来たからに違いない。
それから数年間娘を見ていた俺は、一緒に暮らしていた男はいつの間にかいなくなりたまに娘に何かプレゼントを持ってくる程度の関係しかなかったので、別れてもなお、お友達といったところなのだろうと思った。
その頃には俺の娘にはまた違う男が出来ていて、そっちとの恋愛に夢中だったのだろう。
大家のおばさんになんだかんだと虐められ、娘は借りていたアパートに看板を付け替えて治療院を自宅まで持ってきていた。
毎日くるのは宗教の勧誘・・・あまりに暇な娘は玄関先で2時間も「ふーん」と話を聞いていたりもしていた。
そして、一年もたたない間に実家に帰ることにしたようで引っ越し荷物をまとめて今の父親の単身赴任先に送り付けた。
それからというもの、昼間に別の仕事をしている場所を夜に借りて治療院をやっていたり、大手水商売会社の出資でこれまた鍼灸院を開かされたりしながらと、若いからこその引く手あまたなようだった。
それは仕事に限らず、恋愛でも引く手あまたで、自分の外見が男受けすることをいつから知ったのかとにかくゲーム感覚で思わせぶりな態度を取っては、
数日で告白をさせてしまうほどの男の心理をついてくる才能を発揮していた。
お父さんとしてはそれはどうかな?と耳元で囁いてもみたが意味はない。
俺の娘には霊感のマホウはないらしい。
そこからというもの、特定の彼氏がいるんだかいないんだかわからないけど、片っ端から夜をいろんな男と過ごす日々が繰り返された。
もう、お父さん泣くぞ!
しかも避妊もしないで・・・。
一体誰に似たんだ…え?俺?
そこにふと気がついたことがあった。
もしかして、俺の娘は自分を妊娠しないとでも思っているんじゃないかと思って、てるてるを呼び出した。
「はい、いかがしましたか?」とすぐ現れたてるてるに俺は、娘についているてるてるに聞いてほしいことがあるんだが、と言うと、
「構いませんよ、前回おっしゃっていた件ですか?」と来たので、
「いや、今回は違う、俺の娘が自分は妊娠しないと思っているかどうかわかるかね?」と言うとすっとまた消えて。
しばらくすると帰ってきた。
「あちらのてるてるたちによりますと、娘さんにかけられているマホウはいろいろあるのですが多分御知りになりたいマホウは奇跡にも近いマホウでして、そういったマホウには条件が付くのですが、
その条件が娘さん本人が出産することができないというものでして、察しのいい未来視のマホウも併せ持っているため、ほぼ諦めているようですね」
との残念な知らせだ。娘からの孫を見届けるまで彷徨うことは叶わないのか。
「いや、そのマホウを使わなければ娘は子供を産むことができるのか?」と聞くと、
「あなたの娘さんは既にそのマホウを大いに使ってしまっていますので無理だと思います」と来たもんだ。
「なんなんだよそのマホウの正体って・・・」と苛立ちながら聞くと、
「自分以外の子供を望む人のお腹に人生を歩める命を授けるマホウという神レベルのマホウなのです。ただ娘さんがお腹にいる命に触れて声をかけるだけでもその子は必ず産まれてくる命として生まれない命は追い出されて違う命に入れ替えられます」
そんなの自分を犠牲にして他の人を幸せにしちまってるってことじゃないのか?
「他に御用がなければ僕はここで失礼しますが」とてるてるが去ろうとした時に
「俺は、娘のお腹に宿りたい」と伝えた。
「前回申し上げたように生まれる事はできず、記憶を持ち続け、同じお腹には一度しか宿ることはできませんがそれでもよろしいですか?」
「おう、それは構わない・・・でも、タイミングはどうなんだ?」と聞くと、
「現時点ではいつでも可能ですが今がよろしいですか?」と言う。
俺はこの複数人と不純異性交遊娘が今生まれないとはいえ妊娠したら誰の子だ?となるんじゃないかと少し心配した。
「もう少しだ、もう少しこのまま様子見て俺がここだ!」って言ったら入れてくれ」と頼むと、てるてるは「承知いたしました」と言って消えていった。
自分の娘のお腹に宿るなんて正気の沙汰じゃないと思うかもしれないけど、一生産めないとしても、この乱れた自分を全く大切にしていない娘が自分を大切にできるように力になりたいと思った。
そして、実家に帰った娘は突然、思い立って韓国に行ってしまった。
実家にいる事がどうやら苦痛らしい。
そして、約2年の間俺は韓国にまで付いていきチャンスを伺っていた。
あるクリスマスの夜、娘がずっと待っていたホワイトクリスマスを見て、ふとお腹の中に違和感を感じていた。
そう、クリスマスプレゼントなんて娘にあげたことがなかったから俺がその日お腹の中に宿ったんだ。
ちょうどその時は一人の男としか付き合っていなかったから相手が韓国人だろうが娘を大切にしてくれればそれでいいと思ったが、結果的にやつはスレギ(ごみ)同然なギャンブラーだった。
日本に帰ってきてそのスレギとの結婚を実家に報告した俺の娘はその足で病院に行ってお腹の子の心臓の音をスレギに聞かせようとワクワクしていたが、俺だって頑張ったんだがやっぱりそこで俺は追い出されてしまって、
娘のお腹の胎児は心音を止めた。
それを知るなり娘は気丈に振る舞いみんなを呼んで焼肉に行ったり、辞めていた酒とたばこを吸いなおし、お腹にいる間に美味しいものや酒やたばこを経験していってほしいと言って、家に帰ったらスレギに泣きついて号泣していた。
それでも、俺の選択は正しかったと思う。それからスレギと結婚して、どこから来たのかまた他の生まれない命を宿しては泣く。
俺の娘は子を失うたびにちゃんと名前を付けていた。
俺の後の命には「国ゴク」という名前を付けていた。
俺が名前を付けた娘から逆に名前を貰うことになるとは思わなかったが、
意外と嬉しいものだ。会話一つしたことがない俺と娘だった。
それなのに、名前の頭文字は同じなんだな・・・。
「千の感謝と千の謝罪を込めて【千謝ちしゃ】と名付けられた。
韓国語の読み方では【チョンサ】「天使」となるらしい。女の子が欲しかったのかもしれないな。
そしてまたてるてるを呼び出して、次の願いを伝えた。
「俺は娘と縁はなさそうだけど、記憶預けてあいつを守ってやりたいんだがどのくらいの確率であいつに会えると思う?」と質問すると、
「娘さんがあなたに名前をつけてくれたので、あなたとの縁は生前よりも濃いものとなりました。可能性は十分あるでしょうが、これもなんどもいいますが・・・」
「会えるまで繰り返すんだろ記憶なしで・・・いくらでもやってやるよ」と言うと、
「今ですとあなたは今すぐにでも転生が可能です。行きますか?」
俺は迷わなかった「おうよ!俺に娘の
「承知いたしました、では良き縁に導かれますように・・・。次からは記憶をなくしたあなたが何度繰り返しても次の記憶からはある程度まで記憶を溜めて繰り返すことができます。
それとあなたに与えられていた雲を呼ぶマホウと、子供を愛するマホウなのですが・・・こちらは没収させていただくことになっていますのであしからず」
ーーーある日、とある牧場で母牛は雌牛を出産した。
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