第12話 生死の狭間

「おい、お前さんら、見えちょるか?」と変なものは語りかけてきた。


俺は「え?なに?どこここ?なに?あんたたち」と答えた。


白くて丸くてスカート履いているようなものがぼんやり見える。


妖怪の類か?


「お前さんらは今生死の狭間にいる・・・・・・まぁ簡単に言えば意識不明の状態だと言った方が分かりやすいかの?」と語る妖怪


なるほど夢の中なのか・・・・・・最後に覚えているのは後ろから病み営のメンヘラちゃんに刺されたんだっけな・・・・・・そのうち目が覚めるんだろう。


「俺はまぁまぁ重症なのか?この夢いつ覚める?」と妖怪に聞くと、


「おや、お前さんの方は目が覚めると思っちょるんかい」と言われ、もしや昏睡状態になったのか?俺はもう目覚められないのか?と考えていたら、もう一匹の妖怪が話し始めた。


「てる代さん、虐めすぎじゃないですか?ちゃんと状況説明をしないと」と口を挟む。


てる代と呼ばれた妖怪は


「ぎゃははは、こやつはそれなりの事を他人様にしたから恨みをかったんじゃろう自業自得じゃわい・・・それにしても厄介なもんだね。お前さんらは」と言う・・・・・・そういえばさっきから複数形で呼ばれてるな・・・・・・俺の他に誰か刺されたのか?


周りとふと見渡すと俺の後ろに、俺が居た。


いや、正確にはホストになる前の新聞やでバイトしていた頃の俺が居た。


「え?ドッペルゲンガー?俺死ぬの?」と言うともう一人の俺は「そうなのかもしれない」と返す。


「てる代さんがあなたたちを虐めるのでわたしが説明しますね。あなたたちはふたつで一人の人生を生きてきたはずなのですが、厄介なことに名前を人からふたつ与えられちゃったので、今生死の狭間にいるんです。」


名前・・・・・・親からつけられた名前と・・・・・・もしかして【らゆ】につけられた源氏名のことか?


「名前がふたつになると何で厄介なんだ?」と聞くと、


「本来名前がひとつなら我々の姿はくっきり見え、更に人生が終わったことを告げられるのですが、ふたつの名前のせいでどちらの人生が終わったのか判断しかねる状態にあるのです。」


ああ、なんか新聞で読んだことがあるな・・・・・・芸名とか使う人が持ってる二重生命線ってやつかな。


生命力が強いとか書いてあったっけな・・・・・・俺の手相なんてみてもらった事がないからよくわからないや。


「話は理解できていますかね?続けますよ。あなたたちはとりあえず三つの選択肢があります。


ーーー一つ目は、どちらの人生も終わらせることができ、その先の説明を聞くことが出来ます。


ーーー二つ目は、どちらか一方が人生を再開できます。その代わりこれからはひとつの命で生きていくことになるため与えられたマホウは片方分取り消されます。


ーーー三つ目、二つ目の反対にどちらかだけが人生を終わらせることが出来ます。そして一つ目同様にその先の説明を聞くことができます。


これはわたしたちが選べない問題なためあなた方に選んでもらう必要があります。」


と丁寧な妖怪は言う。


俺は今や、月に2500万円は売り上げる歌舞伎町のトップクラスのホストになった。


俺に会うために沢山の女たちが体を売るようになった。


それでも俺は後ろにいる昔の俺よりも女たちに夢を見せるホストになったはずだ。


この地位をこの二十歳なんかで捨てるのは勿体ないだろう・・・・・・。


とはいえ、俺はずっとこの昔の俺と生きてきたってことだよな。


何だよ昔の俺って記憶なのか?過去の記憶をなくして生きていくってことか?


マホウとか言っていたな・・・・・・片方分なくなるとか言っていた。


「マホウってのはそれぞれ何なのか教えてもらえますか?」後ろの俺が言う。


「もちろん、お教えします。どうせ忘れますし。お二方とも知りたいですか?」と妖怪は言う。


「俺も知りたい」と言うと、妖怪婆てる代が話し始めた。


「じゃあ、教えてちゃろう。そこの地味な方!お前さんにゃ生まれた時に

【人を愛し大切にするマホウ】が授けられとった、そのあとこやつが【努力を惜しまないマホウ】を授けてある。


そっちのキラッキラした方!お前さんは生まれた時に【夢を叶えられるマホウ】が授けられとった、奇跡に近いマホウには代償付きが多いが地味な方にそれを打ち消すマホウがあったから大した影響はなかったろう・・・・・・感謝するといい。


あとはわしが与えたマホウは【早く死ねるマホウ】だ」


マホウってもっとミラクルパラダイスな感じじゃないのか?


しかも早く死ねるってもう呪いだろう。この妖怪婆めなんて呪いかけてくれてんだ・・・・・・。


とりあえず、整理しよう。俺が死ぬと、残るマホウは【人を愛して大切にするマホウ】と【努力を惜しまないマホウ】・・・・・・なんだそれは・・・・・・そんなもの誰でもできるだろう・・・・・・現に俺は【らゆ】を・・・・・・俺は愛して大切にしてきたか?努力・・・・・・っていうよりも翔くんに導かれてとんとん拍子で成りあがってきたんじゃないか?


じゃあ、「なぁ、お前さ【らゆ】のことどう思ってる?」と後ろの俺に聞いてみた。


「俺は【らゆ】のこと最初は章くんに言われたとおりに酔いつぶれて道に落ちていたお姉さんの一人としか思ってなかったけど、結局色々誘われても【らゆ】としかホストになる前にえっろいことしてきてないんだよね・・・ホストになってからも本営って心で思っていながらも、いつも帰る場所や、抱いていて幸せを感じるのは【らゆ】とだけだった気がするんだよね。


それって愛してるってことになるのかな?」


と言われて、俺はもう一人の俺に更に聞いた。


「お前さ、俺のマホウが消えたらさ、多分ホストどころか夢はもう叶わないかもしれないし、そう簡単に死ねもしないらしいけど、どうしたい?俺はお前のマホウなくなったら多分【らゆ】にデリどころかもっとやばい仕事させてでもナンバーワンで居続けてきっと次はすぐ死ぬんだと思うんだよな」


もう一人の俺も頭を抱えているらしい。これは決めるのに時間がかかりそうだ。


「おい妖怪婆・・・・・・これいつまでに決めなきゃいけないんだ?」と妖怪に話しかけると、


「妖怪婆か・・・・・・まぁ否定はせん、何と呼ばれようが構わんが婆はいらんじゃろう馬鹿タレが!いつまでも悩むがいいその分肉体の方は長期入院して医療費はバカ高くなるかもしれないがな、ぎゃはははいい気味だわい」


いつまでもじゃねぇじゃねぇか・・・・・・二人で死ぬメリットってなんだ・・・・・・?


「ふたりで死んだらなんかいいことあんのか?」と聞くと


丁寧な方の妖怪が「そうですねぇ・・・今の段階ならお二方とも人生を卒業することができますね。これ以上は人生を終わらせた命だけが聞けるお話になりますので決まってからにいたしましょう」


と言う。すると、「俺たちの夢って金持ちになることだったよね・・・・・・それって二人でこんなに早く叶えちゃったよね・・・・・・もういい人生だったなって終わってもいいかなって気持ちと【らゆ】にちゃんと愛してるって伝えてデリなんかやめさせて大切にしてあげたい気持ちの両方があってさ、わっかんないんだよ!!」ともう一人の俺は叫びだした。


「俺がさ、一人で生き返ったとするじゃん?そしたら努力と愛して大切にすることは出来てもさ、もう何の夢も叶わないってことになるじゃん?幸せな家庭とか願ったとしても叶わないってことだよね?それって【らゆ】に愛してもらえなくなるのかなって思うと・・・・・・不安で」


ああ、まぁ確かにエースの【らゆ】を更にやばい仕事につかせて、【らゆ】か痛客らにそのうちまた刺されて死ぬとしても、地獄。


【らゆ】からも愛されないかもしれなくて、夢がことごとく叶わなくなっても簡単に死ねもしないとなっても、地獄。


どっちも地獄じゃねぇか・・・・・・。


でも、人生の先があるって言ってたな・・・・・・聞くことは出来ないんだろう今は・・・・・・色んな女に嘘つく仕事してきたんだ人生の先は地獄しかないだろう・・・・・・でも、もう一人の俺は弟やお母さんに仕送りしたりして弟の学費も出してきたって事になるんだよな・・・・・・俺だけならきっと仕送りなんかしないで豪遊していた。


こいつは地獄に落ちるのは勿体なくないか?同じ地獄なら。


「妖怪婆!俺死ぬわ。こいつは生かしてやってよ」と言うと


「え、俺一人なんて不安だよ・・・・・・」とホストになることに尻込みをした俺を思い出す・・・・・・ああ、あれはお前だったんだな。


そういえば、あの時は【らゆ】を彼女って言っていたか。


「大丈夫だ、お前には【人を愛して大切にするマホウ】と【努力を惜しまないマホウ】がある仲間はいるはずだ俺が居なくても大丈夫だ俺の分まで【らゆ】を幸せにしてやれ」


翔くんや【らゆ】が今まではこいつの努力や愛で仲間でいてくれたんだろう。


「決まったようじゃな。ほれ、そこの地味な方のお前さんは納得したらここでのことは全部忘れて戻れ」


そのうちホワンともう一人の俺が消え、そこから妖怪婆の姿がくっきりと見えるようになった。


「そんじゃ、お前さんは途中からとはいえ20年の、らゆとえるの人生を今日晴れて卒業することができたのう。めでたいことじゃ」とてるてる坊主が話し始めた。






ーーーふと目覚めると病院の天井らしい天井が見えた


すぐそばには【らゆ】が居た・・・・・・。


「える!目が覚めたの?大丈夫?あ、ナースコール!」と慌てている。


俺は【らゆ】に「らゆ・・・・・・俺の名前は贈田陽大おくりだはるとだこれからは陽大って呼んでよ」


俺は3週間も寝込んでいたらしい。


「あのね、じゃあ陽大。あたし・・・・・・赤ちゃんできたみたい」と言う。


「そっか、じゃあ俺は昼職頑張って探すから安心して俺の子産んでくれよ。そういえばらゆの本名って聞いたことないけど、今更だけどなんていうの?」


「らゆの本名は天音あまねらゆだよ」


「それ源氏名じゃなかったんだ!あはは・・・・・・痛ってぇ!!」


それから、しばらくしてらゆのお腹の子はお腹の中で心臓を止めた。


それでも、俺は【らゆ】に風俗をやめさせて結婚した。


俺を刺した姫を俺は起訴しなかった。


ただ、なぜか無性に心にぽっかり穴が開いたみたいな気持ちがそれからずっと続いて意味もなく涙が出るようになった・・・・・・。


家族も仲間もいるのに時折一人ぼっちになったような気持ちだ。


それでも俺は生きていく。

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