第10話 【らゆとえる】 享年20歳 その弐

あきらくんが俺の夢であるホストになって一年半くらいした頃、


章くんから電話が掛かってきた。


「久しぶり!変わらず歌舞伎町にいるかー?」


あれから俺は章くんの真似事をして歌舞伎町の朝を練り歩いては章くんが言っていた通り道に落ちている泥酔したお姉さんたちを介抱したり、挨拶をしたりしては見たものの・・・何件か契約を取れるくらいにしかなってなくて、しかも、章くんみたいにお持ち帰りされて、襲ってくるお姉さんのえろさに俺は勝てなくて・・・彼女みたいな関係の【らゆ】というキャバ嬢の部屋で盛りのついたサルみたいにやりまくっていた。


「章くん・・・・・・久しぶり・・・・・・どうしたの?」と聞くと、


「俺さ店出すことにしたんだけどさ、お前そろそろ18になるんじゃないっけなーって思ってスカウトってやつよ・・・・・・それなりに契約あの方法で取ったんじゃね?」


なんと、章くんはたったの一年半で太客を捕まえて、ほぼ毎日ラッソンを歌ってはお店を出させてくれる女帝にまで出会っていた。


「章くんほど契約は取れてないよ・・・・・・もちろん数人のお姉さんたちなら捕まえてあるけど・・・・・・俺でいいの?」と夢であったはずのホストへの道に少し尻込んでいることを伝えた。


章くんは「何言ってんだよ・・・・・・俺はお前が語ってくれた夢で今金持ちになってんだから恩返ししないと、それに俺はお前はいいホストになると思うんだよ・・・・・・俺と違ってちゃんと新聞読んでたしさ」


そういえば、最近は【らゆ】とやりまくってて新聞そんなに読めてないや・・・・・・。


最初の頃は結構スムーズに契約取れてたのに、【らゆ】と出会ってからはヤキモチ妬かれたり、愚痴に付き合わされたりで、そりゃお金も使わないでいい女と好きなだけイチャイチャしてるから文句ってほどでもないんだけど、


とにかく【らゆ】に時間を取られてそれからは集金とかの時に他のお姉さんと話したりLINEしたりして何とか繋がっている程度のお姉さんたちしかいないのが現実だった。


「章くん実は俺、一人彼女っぽいことやっちゃったお姉さんがいてさ・・・・・・章くんみたいに我慢できなかったんだよね・・・・・・そしたらそれからほぼ毎日新聞どころか彼女とやってばっかでさ」と真実を話した。


「あー分かるぞ分かる弟よ・・・でも、それって本営でいいんじゃね?お前の夢の話もしてんだろ?エースとまでいかなくてもキャバならそれなりに貢いでくれるって」


「本営・・・・・・ってなに?」と聞くと


「ごめんごめん、ホストなる前に一回俺がお前にホスト講座してやるから会おうぜ」という事で俺は章くんに久しぶりに会うことになった。


好きなものをごちそうしてくれるというので、滅多に食べられない焼肉を食べに行って章くんのこの一年半のホスト経験とホスト用語や隠語を沢山教えてもらった。


今は章くんは【御前乃翔おまえのしょう】くんというらしい。


ダジャレのような名前だけどこれでナンバーワンで居続けた上に店まで出すことになったんだから笑っても居られない。


章くん改め、翔くんのお店本名からつけた『club‐chapter』は今改装中であと一か月くらいでオープンするらしい。


俺はそれまでに貯めた金でスーツやら靴やらそれっぽい店でそれっぽいものを買い揃えて、新聞やにも辞めることを伝えて、【らゆ】を含むお姉さんたちにも伝えた。


【らゆ】は俺の夢がホストだと知っていたけど、一度は反対された・・・・・・「らゆが食べさせてあげるかららゆだけ愛してよ・・・・・・」と。


それでも、俺の夢だからと言うと承諾してくれたけど、一個だけ条件を付けられた・・・・・・。


「らゆが源氏名つけてあげるからそれ使ってくれるんならゆるーす!きゅぴん!」と


確かにスーツや靴は買ったけど、名前なんて考えてなかった・・・・・・うっかり本名で行くところだった。


【らゆ】なら色んな名前を知ってそうだし、これからもえっろいことさせてもらいたいし、ホストにもなりたいからお願いした。


「え?ほんとにつけていいの?やったー!じゃぁなんにしようかなぁ・・・・・・」


しばらく悩む【らゆ】は突然俺を押し倒してえっろいことをおっぱじめた。


俺が果てた頃耳元でくすぐったく


「君って本当にえろいこと大好きだからエロじゃさすがにまずいから【える】ってどう?」と囁いた・・・・・・。


【える】どっかの漫画で出てきたような名前だしアルファベットにしてもかっこいいな覚えられやすそうだし・・・・・・でも被りそうじゃないか?と冷静になった頭で考えていたら、


「ただの【える】じゃだめだよ・・・・・・君はらゆの彼氏なんだから・・・・・・

【らゆのえる】にしようよー」と言い出した。


らゆのって付けちゃったら他のお姉さんたちに人の男だってバレちゃって客つき悪くなりそうだと思って・・・・・・断ると、


「じゃあらゆは絶対お店行かない!」と言い出して・・・・・・本営がー!と心の叫びを押し殺して


「違うよ・・・・・・らゆのじゃなくて【らゆと】がいいなって思って仕事中もらゆと一緒に居られるじゃん」と一文字なんとか変えてみたら思いの外響いたみたいで、


「なにそれ最高なんだけど・・・・・・【らゆとえる】えーそれに決定!」と上機嫌だこういうところから本営は始まってもいいんだよね・・・・・・翔くん・・・・・・。


スーツや靴などと【らゆとえる】という源氏名も出来たし、あと何を準備したらいいんだろう・・・・・・と【らゆ】に相談すると


そこからは目を輝かせた【らゆ】のおもちゃにされたように美容室に連れていかれたり爪を磨かれたり、時々


「あたしが君を最高のいいホストにしてあげる・・・・・・」と時々じゃないなこれは・・・・・・押し倒されながらも、


お酒の作り方やグラスの拭き方、タバコに火をつける仕草、上目遣いの使い方、新規のお客さんへの年齢別のあざとい呼びかけ方などキャバ嬢の知識だろうけどホストでも役に立つであろうホスピタリティを詰め込まれた。


そして、俺は18の誕生日を迎え晴れてホストとして翔くんのお店


歌舞伎町の『club‐chapter』の【らゆとえる】としてホスト人生を歩み始めた。


初日ってこともあって先輩たちに丁寧に挨拶をして、店のあれこれ禁止事や永久指名や売掛のことなど【らゆ】には教われなかったホストならではのルールのようなものをザックリと教わった。


看板でもある翔くんからは「初日からあんまり気負うなよ楽に行け」と背中を叩いてもらって、前以て連絡しておいた新聞契約してくれたお姉さんたちに確認のためLINEをしておいた。


みんな出勤前の美容室中みたいで


「分かってるよん~待っててね」


「誕プレに絶対祝いにいくねー」


「デビューおめでとー場所の写メ送ってねー」などまずまずの初日になりそうだなと一安心していた。


そして、深夜からが俺たちの本番だ・・・・・・オープンから来る姫たちはキャバ嬢ではない・・・・・・一般と言うわけでもなく翔くん曰くホスト遊びに慣れたお姫だと言う仕事は様々だけど、明日が休みでうっぷんが溜まっているタイプが多い傾向にあるそうだ。


中にはどっぷり翔くんや先輩ホストたちに色をかけられてほぼ、毎日オープンから来る姫たちもいる時間帯。


俺の知ってるお姉さんたちはキャバ嬢ばかりだから休みじゃない限りこの時間帯には来ないだろう・・・・・・深夜2時を回ってアフターが終わった頃きっと来てくれる。


それまでは、先輩たちや翔くんが


「こいつ今日誕生日で今日デビューなんですよー可愛がってやってくださいねーまだお酒は駄目っすよ」と紹介してくれるので、お茶やジュースを貰いながら隣に座らせてもらう。


「えー18歳ってわかーい・・・・・・お姉さんがわからないこと教えてあげるから何でも聞いてね!お祝いに場内入れてあげるー!翔くんーこの子場内入れてあげてー」と幸先よく場内指名が貰えた。


俺は翔くんに焼肉屋でホストでの若さの使い方を習っていた。


「姫たちの中には若い新人ホストほど自分色に染めたがる女が多いから、お前は本営は既にいるけど、色営とか友営とかオラオラなんかしなくていいし、育てもしなくていい、逆に育てられろ・・・・・・とにかく最初は完璧じゃないお前がいいんだよ・・・・・・最終的には夢を見せるのが俺たちの仕事だけど最初で若さ利用できるのは今のお前しかできない営業スタイルだからな・・・・・・しかもこれ鮮度大事だから・・・・・・最初の一週間は休みなしで出てこい」


場内指名を貰った姫は見たところ30以上でうちのお母さんよりは若いけど普通ならおばさんて呼んでしまいそうな女性だった相当通いなれているんだろう・・・・・・ここは【らゆ】の教えを活かせるか?


「あの・・・・・・姫・・・・・・ちょっといいですか?」と耳打ちする


「僕とあんまり年齢変わらなそうだけど飲んで大丈夫ですか?」と。


その姫は


「そんなわけないでしょーまぁ若くは見られるかもしれないけどさすがに成人済よ安心して」と上機嫌だ。


これは実は40以上に言うと逆効果だったりする危険な賭けでもあるので初日に試してみたかったセリフだった。


姫は俺に耳打ちする


「お酒は駄目だけど違ういけないことならもう大丈夫な歳ってことだよね・・・えるくん」と・・・・・・いやいやいや、確かこの人は翔くんの指名だからそんなことしたら翔くんを裏切ることになっちゃうし・・・・・・。


「あ、え、いや・・・・・・あの僕まだそういうの分からなくて・・・・・・」となんて言っていいか分からないで居たらその姫は


「冗談よ!あはは弄った分はゴメシャンでいいよねっ」と言って


モエ・シャンドンを入れてくれた・・・・・・もちろん翔くんの売り上げになるんだけど貢献出来た気がして嬉しかった。


「ありがとうございます姫」初めてのホストとしてのシャンパンコールはモエ一本でも先輩たちが誕生日デビューとして盛大にやってくれた。


「デビューおめでとう・・・・・・えるくんはジュースで乾杯ねっ」と姫はニコッとほんのり赤らんだ頬で笑った。


すると「お姫さまお待ちしておりましたー」という声と共にそこに現れたのは


【らゆ】だった。

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