第7話 【穢れなき命】 その弐

「あれ?失敗した?」と一つのてるてるはハラハラしている。


そこに先ほど見た母親と父親が帰ってきた部屋は散らかっているが喧嘩をしているような気がしない。


あの書いた紙もない。多分成功したのだろう過去に来ることが出来た。


「ここには僕たちがすでにお母さんのお腹の中にいるんだよね?」


そうだと話すと、「仲が良さそうに見えるんだけど何があったんだろう?」と返してきた。


ほんの少し見ていると仲が良さそうに見えていた夫婦はまた小競り合いを始め、この子たちの母親はこの子たちの父親に「死ね!」と騒ぎ立てている。


その間10分ほど特に何が起きたわけでもない。


この母親は妊娠する前から心の病に罹っていて、薬が切れると興奮して暴れたり泣いたり夫に対して物を投げつけたりすることがあるようだった。


父親側はというとそんな母親を甲斐甲斐しく世話するいい夫でいる反面、バレないように外で他の女を買ってストレスと性欲を発散していた。


時間を少し進ませて見て行くと、やっと妊娠に気づいた母親が縁を切られた友人に連絡をしていた。


大して仲がいいと相手は思っていなかっただけじゃなく、その友達はこの子たちの母親に罵倒をされることに疲れて縁を切ったはずだった。


それでも、「子供が出来た」という言葉にその友達はどうやって連絡してきたのか分からない事に気持ち悪さを感じながらも「おめでとう」と返していた。


母親は「めでたくなんかない、堕そうか悩んでいるから話を聞いてほしい」と無理やり電話での話を要求していた。


その友達は子供を亡くしたばかり・・・なかなか相談相手に選ぶには酷なことをする母親ではある。


とりあえず話だけ聞くよと言われそれから何週間も一日4時間以上の電話を母親はその友達にかけた。


「なぜあんなに欲しがっていた子供が出来たのに殺すことになるの?」と友達は聞いた。


「この子が出来た時は家庭内強姦されたも同じ、そんな作られ方したら産まれてくる子供が可哀そうじゃない」という母親に友達はこう返した。


「その子はロマンチックな夜の営みで出来たかもしれないのに、なんでその日に限定しているの?ロマンチックなら愛し合う二人の子じゃないの」と。


母親は答える「排卵日を計算したらその日しか思い当たらないのよ」と。


「排卵日は月に一度しか来ないもんでもなければ妊娠初期なら妊娠中の排卵で二人目を授かるレアなケースだけどそういうことだってある。その子たちが乱暴に出来た子供だなんて決めつけるのは早すぎるんじゃないのかい?」


と友達に言われても確かにその一か月の間に何度でも夜の営みがあった母親は少し考えたけど、頑固にその日の子供だと言い放った。


電話で旦那さんに代わるようにと友達はその母親に伝え、父親である彼に聞いた。


「君も子供を産んでほしくないの?前はまだ要らないって言ってたけど今はそこに既に君たちの子供がいるんだけど、殺すつもりで居るの?」と聞くと、


「俺は以前は確かにまだ奥さんの飲んでいる薬とかの影響があると子供に悪いから作るのはまだ早いと思っていたけど、気がつけば高齢出産の年齢はとっくに過ぎていて、折角授かった命だから産んでほしいと思っている」と言う。


それを聞いた穢れなき命たちは「「お父さんは僕らに産まれてほしかったのになんで殺されちゃったんだろう」」と疑問がわくようだ。


友達は「旦那さんだけサインしなければ殺すことはできない、夫婦でしっかり話し合っていい方向に向かえるといいね。次授かる保証なんてないんだから」と言っていた。


そう言ったやり取りが何週間も続いた頃ピタリと友達への連絡をやめて、母親はネット掲示板の相談をして、受け取った返信に


「主さまが本当に産むことに不安を感じているなら、産まない事もあなたの権利です。でも、これは早く決めないと法律で堕胎できなくなるので、旦那さんに同意書を書いてもらう事が必須となります。」と言われて、


また友達に電話をして「ネットではそう言われた、だから同意書にサインするように説得してほしい」と言っていた。


友達は子供を欲しくて失ったばかり、確かにこの友達のお腹に宿る子は産まれる前提ではない子たちばかり、でも、今現在(ここ過去だけど)生まれるかもしれない子を簡単に殺すことには賛同できない立場でもある。


穢れなき命たちの母親も父親も両親とはほぼ絶縁状態、じいちゃんやばあちゃんに相談はどうやらしたくないようだ。


それにこの友達に授けられたマホウは自分以外の人間に生きる力を分け与えるマホウ・・・直接会うことを嫌うが穢れなき命たちが産まれてくることを心から願っている。


「分かったじゃぁ、今の旦那さんとは離婚するつもりで子供を殺すのね?もう二度と子供を作らない覚悟で殺すのね?」という友達の問いに、


「そう、もうこの人とは離婚する、DVがすごいもの、シェルターにでも逃げたいくらい」と母親は言う。


過去を見ている穢れなき命はDVの事は知らないだろうけど、こっちからみたらDVしているのは母親側だ。


「じゃあ、旦那さんに代わって、話をするから」そして父親が電話に出た。


「おれ、DVなんてしてなくて・・・子供もやっぱり産んでほしい」と言う。


「それならさ、どうしても産んでほしいだけじゃなくて、一緒に育てていこうって応援して支えてあげてよ」と友達が言ってその日の電話は終わった。


産婦人科にももちろん「産んだ方がいいか産まない方がいいかまだ決められない」と相談をしている母親に医師は答えた。


「性器部にコンジローマがある・・・誰から貰ったものだか分からないけどこれは治しておきたいね」


母親はいつからあるか分からない性病感染に旦那を責め立てた。


父親の方は本当に何もしていないとしか言わない。


そしてまた今宵もあの友達への電話相談が始まった。


「コンジローマか、いつから感染しているか分かりにくいものだからどちらから貰ったとか分からないけど、お医者さんに任せれば妊娠の継続に支障はないよ。あなたが結婚前から貰ってないとも、検査なんかどうせしてないだろうから分からないし、旦那さんも泌尿器科で検査してもらったらいいんじゃないかな」


そして、友達は父親の方に強めに言う「妊娠中の奥さんに隠れて他の女買ったり抱いたりしてるんだったら素直に認めて二人で病気を治すことは必須だし、ちゃんと謝らないといけない。同意書には何があってもサインしなければ子供は生まれる。マタニティブルーならそのあとのケアを父親である君が頑張ればいいだけの事」


そう言って最期までこの穢れなき命たちが産まれてくることを信じて、いい報告を待つため、一度は縁を切ったこの子たちの母親の連絡先をブロックしなかった。


それからというもの、母親の情緒はどんどん不安定になっていきついに、説明した場面が来てしまった。


母親は自分自身にギラリとした鈍い光を放つ包丁を向け、「子供を産まなきゃいけないならあたしは死ぬ!」と言い出し、父親は他の女を抱いていたことはずっと言わないまま同意書にサインをした。


そして、事後、友達に連絡をなぜかした母親「あたし、子供堕したわ」それを聞いた友達は「じゃぁこれから離婚の話になるんだね?」と返した。


そして、さっきまでのところに戻ってきた。


あの紙を写真に撮って母親はあの友達に送り、友達から「あなたたちの考え方はとても気持ち悪いから本当にこれから何があっても連絡してこないでください」と返信が来て、母親は腹が立って


「あんたのお母さんはあんたみたいな娘が産まれて来なければもっと幸せだったのに可哀そう」と送り付けて友達に「うちの親に一度もあったことないのによくそういうことが言えますね。ブロックします。」と言われ音信不通になっただけじゃなく、


その友達の旦那さんから「うちの奥さんにもう絶対連絡してこないで」と念をおされた。


すると穢れなき命の一つが「お母さんは僕みたいなお友達が居ないで生れたの?」と聞く、


てるてるは答えた「お母さんもお父さんもちゃんと君たちと同じ一緒に産まれた仲間が居るんだよ・・・いい仲間かどうかはわからないけどね」


「そうなんだ・・・じゃぁ一人じゃなかったんだね・・・」


てるてるは少し悩んで、「そうだな・・・ちょっと世界を見に行ってみようか?」と二つの穢れなき命に次の場所を案内することにした。


ひとつの穢れき命はもう少し両親を見ていたそうだったけど、


「いつでもまたここに来れるよ」と言われてついていくことにした。


「君たちが思うよりこの世界はとても広いからね・・・これは特権だから是非見てみてよ」と色んな生き物が居る場所に連れて行ったのだった。

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