第6話 【穢れなき命】 その壱

「おやおや、最近は本当に多いけど外の世界にチャレンジはできなかったようだね」


そうてるてるが話しかける先には二つの穢れなき命たちがいた。


「わたしのことが何だかも分からないと思うんだけど、儀礼だから一応言っておくね・・・・・・あなたたちは行年21週間と2日で今日晴れて人生を卒業することができました。おめでとう」


すると、一つの命が答えた。


「僕たちは何で、君たちは何?確か暗くてコポコポと音がしてとても、嫌な気持ちが伝わってくる場所にいたのは覚えているんだよ」


もう一つの命も話し始めた。


「でも、鈍くても聞こえる声はあったよね?少し明るくなってさ、あのあとすごく痛かったのも覚えてる」


てるてるたちは彼らにも分かるように説明を始めた。


「君たちは望まれてお父さんとお母さんの元に産まれるはずだったんだけどね、


産まれて外に行く前にお母さんの心が不安で一杯になっちゃって、勢い余って産むのをやめてしまったんだよ」


命たちはキョトンとしている。


それを見た、てるてるの一つが


「色んなことをここで話しても分からないだろうから折角だし外の世界を色々見てみてから次の事を考えるってのはどうかな?」と提案してみた。


穢れなき命たちは顔を見合わせて


「「じゃあそれやってみる」」


「じゃぁ、まずはあなたたちのお父さんとお母さんの居る場所でも見てみる?やめておく?」


一つの命は


「それが何なのかわからないからとりあえず見てはみたい」


もう一つの命は


「あの嫌な気持ちがまた来るのかな?それは怖いかも」


と言う。


てるてるは


「怖くなったら今ならどこにでも行くことが出来るよ・・・・・・本当ならわたしたちは姿をあなたたちから見えないようにしながらそれぞれ、ずっとついていくんだけど、あなたたちの場合は声をかけるのも難しいだろうから常に姿を見せてどこまでも一緒に行くよ・・・・・・怖かったら教えて」と伝えた。


二つの穢れなき命たちはそれならばとまずは、親の元から彷徨い始めた。


着いた先ではワンワンと泣いては物を投げつける女の人とそれをなだめようとする男の人が居た。


部屋の中は物が散乱してギラギラとした色柄の家具が多い。


「ねぇ、あの人たちが僕たちのお母さんとお父さんなの?」


てるてるは


「そういう事になるけどね」とだけ答えた。


穢れなき命たちの母親である女は、彼らの父親である男に物を投げつけて気が済んだのか、


話し合いをしたいと言い出して紙とペンを持ってきた。


とにかくこの先の事を話し合うのだろうか、母親の願望がとにかく殴り書きされていく。


「ねぇ、僕たちはあれが読めないから代わりに読んでくれるかな?」と言われたてるてるは、少し躊躇いながら、


「分かった読んでいいんだよね?」と返した。


「「うん、読んでみて」」てるてるは顔を見合わせお前が読めよ・・・・・・と言わんばかりであったが、根負けした方のてるてるが読み上げた。


「あの紙には『あたしが子供を産めるのはあと少ししか時間がない早く子作りに協力してほしい』と書いてあるね」


穢れなき命たちは


「「子供って僕たちの事?」」と聞いてきた。


まぁ、そう来るだろうなと思ってとても答えにくそうにしていた。


黙っていたら穢れなき命の一つが


「僕たちはお母さんが不安になって産むのをやめたんだよね?お母さんはやっぱり産めばよかったって思っているってことかな?」と純粋極まりない質問をした。


はい、その通りですと言えたらどれだけ楽か・・・・・・と思いながらてるてるは本当の事を話した。


「君たちのお母さんは子供が欲しいと何年も言っていたんだけど、お父さんはお母さんが親になるのはまだ心が落ち着いてからじゃないと無理なんじゃないかと反対していたんだ。


ある日お母さんはお父さんと些細な喧嘩をしていて喧嘩を治めようとお父さんが君たちを作る行動に出たんだけど、その時に君たちがお母さんのお腹に宿って、後々気がついたお母さんは喜ぶよりも・・・・・・お父さんと愛し合った結果できた子ではなく、乱暴にされて出来た子だから産まれてきたら可哀そうだと言って、友達に相談したり、分からないだろうけどネット掲示板などで相談したりして、


子供を産むくらいならあたしは死ぬ!と言ってお父さんに同意書というものを書かせて自分で病院に行って君たちを殺してもらったんだ」


穢れなき命の一つが


「じゃぁ僕たちは望まれてお母さんのお腹に宿ったのに状況が理想的じゃなかったって理由で殺されたけど、お母さんは早く子供をまた欲しがっているってこと?」


もう一つの命は


「それって僕らじゃない命がよかったから殺されちゃったってことかな?」


それにはもう一つのてるてるが答えた


「こう言っては何だけど、あなたたちのお父さんもお母さんも何度子供を宿らせても産むことはきっと出来ない、出来たとしても産まれてからも相当乱暴に扱われて殺されてしまうかもしれない。


そのくらいの心を持っているお母さんとちゃんと自分の意見を言えないお父さんだからあなたたちじゃなくても、結果はあまり変わらないと思うんだよね」


少しオブラートに包むようには話したつもりだったけど子供からしたら辛いだろうな・・・・・・と思っていたら


「僕たちが産まれてくることを願ってくれた人は誰も居なかったのかな?お母さんの不安を止めてくれる人が居たら違ったかもしれないのじゃない?」


と聞かれて


「ちょっとだけしか許されていないんだけど、君たちだけの特権があるんだ・・・・・・君たちの人生が始まった日までなら遡って過去を見る事ができるよ」


「「過去を見る」」穢れなき命たちはそれを聞くとうん!と首を縦に振った。


「じゃあ、君たちとの間にぼくともう一つのこいつを入れて輪を作ろう。」


こいつと呼ばれたてるてるは


「あたしのことをこいつなんて呼ぶんじゃないわよ」と少し説教していたけど手を繋いで輪になった。


「さぁ、行こう怖かったらいつでも戻って来られるからね」


すると輪の中から沢山の色の光が渦を巻いて溢れ出した。


光に包まれて出てきた場所は同じ物が散乱した穢れなき命たちの親の家だった。

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