第5話 てるてる坊主現る

「さて、お二方この先のお話をいたしますが、人生に関しての質問等ございましたら、先にお伺いするようにしております。いかがでしょうか?」


お二方・・・ってなんだか分からないが「俺の人生って短くなかったか?」


一つのてるてる坊主が答え始めた


「いえ、人間の設定してある寿命はだいたい30年くらいで、いいこともわるいことも本当にしなければ30歳ころにぽっくりと死ぬことになっているので、長生きした方だと思いますよ。」


「俺はなんかしたっていうのか?まぁ子供たちにも妻にも、乱暴したりしたか」と言いながらも自分がしてきた事が生きていた時よりもドーンと重く感じてきた。


「まぁ、あなた方が最期の8年間とても孤独に過ごされていた理由はそのおっしゃっている事が大いに関係していますね。そして、会いたかった娘さんに会えなかったことは残念ながら連帯責任というもので、縁がなかったというしかないですね。」


そうてるてる坊主が俺に・・・俺たちに?言っている連帯責任。


「他に人生に関する質問はないのかよ」ともう一つのてるてる坊主が言う。


「さっきからあなたたちとか連帯責任とか俺は一人で死んだんだよな?」


口の悪い方のてるてる坊主が「黒木昭文としては一人で死んだことになってるよ、でも黒木昭文の中には二つの命が混じって生きてきたからあんたたちって言ってんだ」


「これ、てる坊口が悪いですよ・・・晴れて卒業された方々には敬意を払いなさい」と丁寧な方のてるてる坊主が注意をする。


俺は右をふと見た、そこには俺がもう一人いた。


もう一人の俺は「あ、俺も人生の質問一個だけいいかな?俺の母親ってどうしてるかわかったりする?」


てるてる坊主は「それについては幸いなことに知ることがどうやらあなたたちにはできるようですが、本当にこの質問は多いですね。後ほど説明いたします」


俺は「ちょっと待ってくれよ、あんたたちはただのてるてる坊主じゃないのか?」と問う。


「ああ、自己紹介をしたくても、僕たちはあなた方が色んな名前を付けて呼んでくれるのでなんて言ったら分かりやすいのか分かりませんが、


有名なところだと守護霊だとか心の中の天使と悪魔と呼ばれることもあり、死に間際には敏感なマホウを持っている生き物にはうっすらとみられることから死神ともよばれたりします。


どう呼んでくださっても構いませんよ・・・てるてる坊主でも」と頭を混乱させることを言ってくる。


口の悪い方が言う「あんたたちが産まれる時に俺らと俺らの前の担当がマホウをそれぞれ与えておいたんだ。片方のあんたには【雲を呼ぶマホウ】それと【子供を沢山授かるマホウ】それが前の担当が与えて行ったマホウだ」


そして、途中で引き継ぎ今いる奴らが他のマホウを追加して与えたんだそうだ。


「僕はあなたに【子供を大切にできるマホウ】を与えましたが、このてる坊はあなたに【酒を飲むことでMPメンタルポイントを回復できる】マホウを与えました。うまく使いこなせはしなかったみたいですけどね」


「さて、人生についての質問はこんなもんでしょうか?」


正直頭がさっぱりついていかねぇ。右にいる俺も同じようだ。


てるてる坊主は返事を聞かずに説明を始めた。


「まず、この先あなた方はそれぞれに選択肢があります。よく聞いてくださいね」


ーー壱に記憶を持ってこの世界に漂う事が出来ます。制限時間はありません。


ーー弐に記憶をある条件をクリアするまでお預かりして誰かのお守(オモリ)として人間ではない生き物に転生して縁があれば大事な誰かを守ってあげる事が出来ます。


そこまで聞いて右の俺が口を挟んだ。


「俺はもう人間にはなれないのか?」


てるてる坊主は「幸いにもあなた方はそんな心配しなくとも、もう人生を歩むことはございません。


これは参にご説明することだったので丁度いいです。


人生を歩みはしないけれど、誰かのお腹に宿り生まれないという事は可能です。記憶もついてきます。なので最初に選ばれるのは壱かこれが多いですね。縁がなくても選んで傍に少しでも居られますからね」


生まれない・・・流産とかってことなのか?


「弐を選んだ場合には記憶はなくなって何になるかもわからない上に縁がなければ大事な誰かを守れるかどうかは賭けって事になるのか?」


てるてる坊主は「ご名答!何度でも死にその度にまたその時あなた方に僕らのような者が今回と同じご説明をさせていただいております。会えるまで何度でもチャレンジされる方が多いですよ」


どうされますか?右の俺は答えた「最期までぞんざいに扱ってしまった二人目の妻を守れるのなら記憶をなくしていた方がいいから俺は弐を選ぶ」


てるてる坊主は「承知いたしました。転生のタイミングは今のあなたでは選べませんその時までしばしお待ちください」と言われ、右の俺はスッと消えて行った。


「俺は・・・縁がなくても家族の近くに記憶を持ったまま居たい」


少し不思議な顔をしたてるてる坊主は「抽象的だと何なのでとりあえず壱で大事な誰かをしばらく見てみますか?お守(オモリ)と違って守ることなどなにもできませんが」


守るよりも俺はまず娘の顔を見てみたい成長してもう成人もしているだろう。


「もし、他の選択肢を選びたくなったら僕らを呼んでください。すぐにその他の選択肢をご準備いたします」との事だった。


「母親の腹に宿ることも出来んのか?」


「そのご希望も多数寄せられていますが、同じお腹に宿ることはできません。それ以外のお腹なら血縁であれ前の奥様であれ一度ずつなら宿れます。ただ改めて言いますが、産まれる事はできませんよ」


「じゃぁ俺は壱を選んで会えなかった会いたかった前の妻と娘の姿を見るために漂う事にするわ」


てるてる坊主は「そうですか、ではまた気が変わった頃にどうぞお呼びください。因みにあるマホウを持った生き物にはあなたの姿が見えるので夜は特に怖がられやすいですから傷つかないでくださいね」


そう言っててるてる坊主たちは消え、俺はまずは俺の死んだ部屋に舞い戻った。


あーあ、やっぱり俺の部屋は取っ散らかってカップラーメンとか食いっぱなしで置いてあるじゃねぇか・・・答子が初めて来たときにそういえば言っていたな本当に散らかってますね。でも黒木さんの匂いがして安心しますと。あの笑顔のままでいてほしかったのになぁ。


ってかあいつっていうかもう一人の俺あれはなんだったんだ?


しばらく部屋を見ているとやれ、警察やら救急隊やら色んなやつらが来ては俺の死体は運ばれていった。


俺の死体には特に興味がなかったけど、あぁ本当に死んだんだなと実感がわいてきた。


もう一人の俺は意外と二人目の妻を愛していたんだな・・・酒を飲んで暴れていたのは俺なのか?あいつなのか?まぁ今となってはどっちでもいい。


母方の従弟が警察に呼ばれたようで、死亡確認というものとその他クリーニング代やらいろいろ払ってくれて簡易な葬式もやってくれたようだが誰も親父すらも母親すらも来ていなかった。


親戚が数人母親の事を言っていたのが聞こえた。


「どうやら離婚をしてから恐山でイタコをやっているらしいけど息子が死んだっていうのにどうやらまだ降りてこないからと信じないでいるらしいわよ」


なかなかぶっ飛んだ母親だったんだな。


慣れてくると、この体のない記憶だけの俺は使い勝手がいい。


道なんか建物ごとすり抜けて移動できるし、飛ぶことすらできる。


人生なんて本当にあっという間だったな。


いちいち悩んでいたことが当時は谷底にでも落ちたような感覚だったが、今は本当にどうでもいいことが多かった。


しょっちゅう八つ当たりした中野建設の森田にも悪いことしたな。


そして、最後に興信所で知った答子と娘の居場所までたどり着いた。


クッソ、こいつが新しい答子の旦那か・・・そしてそいつとの娘か。


俺の娘は・・・もう22歳になろうとしているのか。出会った頃の答子と同じ頃だ。


何かの試験を受けたらしいな合格通知をひたすら待っているようだ。


俺の事は知っているのだろうか?


「おーいてるてる!」呼ぶと瞬く間に現れた。「いかがしましたか?」


「娘が俺の事を知っているかとか分からないもんか?」


少してるてるは考えてこう答えた「娘さんについている僕らの仲間に聞くことは僕らならできますが本当に知りたいですか?」


そういわれると少し尻込みしちまうな。


「あーじゃぁ気が向いたら聞くことにするからまた呼ぶわ」と言うとてるてるは消えて行った。


そっけねぇな。


そんじゃまぁ娘の顔でもしっかり拝ませてもらうかな・・・拝まれるのは本当は俺の方なんだけどな。


さてと、どんな娘に育ったんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る