7 旅立ち
「お婆さん! 」
ベティーは急いで、家に戻ってきたが、
間に合わなかった………
穏やかな表情で眠っているお婆さん。
いつしか雪が降り始め、風が蕭々と吹き流れる。
ベティーは泣き伏せた。
◇
家族だけの葬儀が行われ、お墓はお爺さんと一緒。
その後、ベティーが一人残った家には、毎日ルークが来てくれる。
こうして、お婆さんの遺品を片付けたりしながら、季節は移ろう。
多数の怪我人を出した王都の兵隊は、しばらく療養して帰還した。
あの、ベティーを侮辱し、そのベティーに助けられた兵士が家まで来て謝罪した。見ると、やけどを負って包帯をしている。
ベティーがやけどに効く薬を渡すと、深々とあたまを下げて帰っていった。
◇
スイセンが咲き、
ルークは家の片付けを手伝いながら、不安そうに
「ベティー。次の冬も帰ってくるんだろ」
「うん、そのつもり」
その答えに安心したルークは、少し恥ずかしそうに
「なあ、いっそう渡りをやめて、ここに住みなよ。この街は、夏が一番いい季節なんだ。涼しくて、綺麗な川で泳ぐのもいいぜ」
「ああー、私の水着が見たいの」
「ええ! そんなつもりじゃ」
真っ赤になるルークにベティーは笑って
「そうね、ルークが一人前になったらね」
「なんだよ。どうせ無理だと言いたいのだろ」
ふてくされるルークだったが、ミーがベティーの足元で
『このボンクラわかってないぞ。一人前になれば住んでもいい、と言うことだろ。ハードル低すぎだろ』納得いかないようだが
『まあ、いいか。ベティーもあのボンクラも来年は十ハ歳。この街では、ほとんどの若者が一人前になる年だ。きっと頑張るだろうよ』
ベティーは微笑むが、ルークに黒猫の言葉は、ミャー、ミャーとしか聞こえない。
★★★エピローグ★★★
ベティーはルークを始め世話になった人にあいさつをして出発した。
最後に、黒猫と一緒に教会の屋根に立ち寄って街を見渡す。
「今年の冬はいろいろあったね」
しみじみと呟くベティーに黒猫のミーは
『でも、君がまさか』
「まあ、そのことは町の人には内緒にね。とは言ってもミーは猫だから、誰もわからないけど」
ミーは一声鳴いたあと。
『なあ、ルークじゃないけど、ここに住まないか』
「北の街にも私を待っている人がいるんだ。それに、旅の途中の街でも」
『ふーん、モテモテだね。ルークが聞いたら焦るぜ。でも、ここより北の街なんて、もっと厳しいのだろ』
「そうだね、旅は大変だけど、いろんな国や、街があって面白いよ。それに、厳しい自然のなかでも人が住んでいる。どんな場所でも、生まれ育った場所には思い入れがあるでしょう」
『そうかもね、住めば都だね』
ミーの言葉に、ベティーは再び街を見渡し
「いずれ、この街も私の都になるのだろうな」
『ええ! それってルークに言った、一人前になったらここに住むって本気なの。気休めの方便じゃないのかい』
ベティーは、微笑んで
「でも、旅先で世話になった人がたくさんいるから、ちゃんと挨拶しとかないと」
笑顔を向けるベティーに、黒猫は「ミャー」と一声鳴くと、ベティーの箒の先端に飛び乗った。
「ええ! ミーも一緒に行くつもり」
『ああ、魔女に黒猫は鉄板、定番、だろ。それに、おばあさんもいないし。僕も広い世界を見てみたいよ』
「でも、結構たいへんだよ」
『わかってるさ、それに猫の五感も結構役に立つよ』
ベティーはやれやれと言った表情で
「わかった、じゃあ一緒に行きましょう」
ベティーは荷物を括りつけた箒にまたがると、ミーと一緒に空に舞い上がる。
街の上空を一回りしたあと、北の空へ旅立って行った。
(了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます