7 旅立ち


「お婆さん! 」


 ベティーは急いで、家に戻ってきたが、

 間に合わなかった………


 穏やかな表情で眠っているお婆さん。

 いつしか雪が降り始め、風が蕭々と吹き流れる。

 ベティーは泣き伏せた。



 家族だけの葬儀が行われ、お墓はお爺さんと一緒。

 その後、ベティーが一人残った家には、毎日ルークが来てくれる。

 こうして、お婆さんの遺品を片付けたりしながら、季節は移ろう。


 多数の怪我人を出した王都の兵隊は、しばらく療養して帰還した。

 あの、ベティーを侮辱し、そのベティーに助けられた兵士が家まで来て謝罪した。見ると、やけどを負って包帯をしている。

 ベティーがやけどに効く薬を渡すと、深々とあたまを下げて帰っていった。



 スイセンが咲き、梅桃ゆすらうめの蕾が綻ぶ頃、旅支度を始める。

 ルークは家の片付けを手伝いながら、不安そうに


「ベティー。次の冬も帰ってくるんだろ」

「うん、そのつもり」

 その答えに安心したルークは、少し恥ずかしそうに


「なあ、いっそう渡りをやめて、ここに住みなよ。この街は、夏が一番いい季節なんだ。涼しくて、綺麗な川で泳ぐのもいいぜ」

「ああー、私の水着が見たいの」

「ええ! そんなつもりじゃ」

 真っ赤になるルークにベティーは笑って


「そうね、ルークが一人前になったらね」

「なんだよ。どうせ無理だと言いたいのだろ」


 ふてくされるルークだったが、ミーがベティーの足元で

『このボンクラわかってないぞ。一人前になれば住んでもいい、と言うことだろ。ハードル低すぎだろ』納得いかないようだが

『まあ、いいか。ベティーもあのボンクラも来年は十ハ歳。この街では、ほとんどの若者が一人前になる年だ。きっと頑張るだろうよ』


 ベティーは微笑むが、ルークに黒猫の言葉は、ミャー、ミャーとしか聞こえない。



★★★エピローグ★★★


 ベティーはルークを始め世話になった人にあいさつをして出発した。


 最後に、黒猫と一緒に教会の屋根に立ち寄って街を見渡す。


「今年の冬はいろいろあったね」

 しみじみと呟くベティーに黒猫のミーは


『でも、君がまさか』

「まあ、そのことは町の人には内緒にね。とは言ってもミーは猫だから、誰もわからないけど」


 ミーは一声鳴いたあと。

『なあ、ルークじゃないけど、ここに住まないか』


「北の街にも私を待っている人がいるんだ。それに、旅の途中の街でも」

『ふーん、モテモテだね。ルークが聞いたら焦るぜ。でも、ここより北の街なんて、もっと厳しいのだろ』


「そうだね、旅は大変だけど、いろんな国や、街があって面白いよ。それに、厳しい自然のなかでも人が住んでいる。どんな場所でも、生まれ育った場所には思い入れがあるでしょう」

『そうかもね、住めば都だね』

 ミーの言葉に、ベティーは再び街を見渡し


「いずれ、この街も私の都になるのだろうな」


『ええ! それってルークに言った、一人前になったらここに住むって本気なの。気休めの方便じゃないのかい』

 ベティーは、微笑んで

「でも、旅先で世話になった人がたくさんいるから、ちゃんと挨拶しとかないと」


 笑顔を向けるベティーに、黒猫は「ミャー」と一声鳴くと、ベティーの箒の先端に飛び乗った。


「ええ! ミーも一緒に行くつもり」


『ああ、魔女に黒猫は鉄板、定番、だろ。それに、おばあさんもいないし。僕も広い世界を見てみたいよ』

「でも、結構たいへんだよ」

『わかってるさ、それに猫の五感も結構役に立つよ』

 ベティーはやれやれと言った表情で


「わかった、じゃあ一緒に行きましょう」


 ベティーは荷物を括りつけた箒にまたがると、ミーと一緒に空に舞い上がる。

 街の上空を一回りしたあと、北の空へ旅立って行った。


(了)

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