第二章 調査

 下調べで、木々の処理をしなければ入れないことは承知していたのと、その過程で何が住み着いていてもおかしくないので、少し重たい棍棒と、虫除けの霧吹きを持って伐採しにきていた。今日は初日で、ただ木々を刈って道を作り、次の日に調査する予定だ。伐採は午前中に終え、その木を木材屋に売り、その後はこの場所についてのことを町に戻って聞き込みをするつもりだ。

「さて、速いこと終わるといいが」

そうこぼしてしまうほどには塞がれていて、午前中に終わるなどというのはいささか甘かったかに思うほどの木々がその場を支配していた。

 まず一太刀、木々に斧を入れてみる。かなり硬い、というか、ほぼ斧が入らなかった。流石に私もこれは予想外で、どうしたものかと困ったが、物理学の応用を考え、その場にある木に紐をかけ、斧を巻きつけ遠心力を利用して斧を木が中心になるように力をかけて木々に当てる、そうすると刃がほぼ入らなかった木々も綺麗に真っ二つにできた。割と手間がかかるが、このようにしてちまちまと木々を切り落とし、道を作った。流石に午前中までにとはいかなかったが、無事人一人が通れるくらいの獣道の様なモノを作り終えた。夕日が沈みきる前に町に戻り、腹を満たし、日が沈んだ後に木を売った。流石にもう夜が深くなる頃合いなので聞き込みは明日にすることにし、今日は寝ることにした。

 翌朝、早い段階で準備をしてホテルを出た。私は考古学者で色々な地域に足を運ぶ必要があるため、特定の家を持たずホテルや宿を転々としているため聞き込みまでスムーズに事を運べた。街で聞き込みをするもめぼしき情報は出ず、路頭に迷っていたがとある初老の男が、

「何か探りたいなら酒場に行くといい、あそこは酒の力もあって種類を問わず多くの情報が流れ込む。俺はァ、昔探偵をしていてなァ、よく酒場で聞き込んだもんよ」

と、言っていた。その男は大層酔っていたらしく、あてにならないと考えていたが、私は考古学の更なる可能性、神秘を見るために何も厭わないつもりであり、ここまで情報が廃れてしまえば藁にもすがる思いで酒場に立ち寄った。日暮れの酒場は人が多く、皆が何かを話している光景と、むせかえってしまいそうな酒の匂いがその場を支配していた。そこそこの広さがあるこの酒場で、私の知りたいことを知っている人をピンポイントで探し当てるのはあまりの現実味がなく感じられたので、酒場のマスターに話を聞きに行った。

「マスター、ここはいいとこですね。とても賑やかだ。」

「そうでしょう、おかげさまで商売繁盛ですよ。」

「少し聞きたいことがあるのだが、よろそいかな?」

「なんでしょう?酒場の名前なら『Another nail』ですが、よみは"ネイル"ではなく"ナイラ"なのですよ」

「ほほぉ、珍しい名前だ、"ネイル"と書いて"ナイラ"と読むのか、どうしてその名前に?」

「さぁ?私は3代目マスターですから、1代目がつけた名前ですので、理由まではさっぱりです。」

「なるほどぉ、ですがね?マスター。私は何も酒場の名前を聞いたんじゃないんですよ。」

「これは失礼、そうでしたね、して、何をお聞きになりたくて?」

「国から名前を剥奪された場所、、、そこについて何か知っていると都合良いのです」

「なるほど、そうですねぇ、元の名前は『under round』という名前でしたかね、あそこは人はほんの少ししかいなかったが、何故か、邪悪なる神を崇拝していて、それが故に剥奪されたと聞きました、今では名前を言うことは暗黙の了解のようなもので禁じられているんですよ」

「え、、国が壊滅させたのですか?その場所を」

「いえ、人が次々に失踪したらしく、邪神崇拝と失踪事件を重く見た政府があのような処置をしたと聞きました。」

「一体どんな邪神を?」

「さぁ?そこまでは知りませんが、あそこに政府は何度も立ち寄り、何か探していたと言う話は耳にしましたよ」

「なるほど、ありがとうマスター、進展のなかった知識の扉に一歩近づけた、祝いに一杯貰えるかな?カクテルがいい、テキーラ・サンライズを」

「かしこまりました」

マスターは一礼し、早速作り始める。歴が長いことが窺える手捌きに見事と言い、私は少し甘めのグロナデンシロップだなと思いつつ、酒を嗜んだ。

「ありがとうマスター、お勘定を」

「6ポンドです」

「はいよ、なかなか美味だった、また来るよ」

「お待ちしております」

そういい、酒場から出た私は心の中で得た有益な情報を頭に巡らせた。あまりに奇怪な事件だが、私の飽くなき探究心はその事件への気持ちが昂るばかりだ。

「明日に備え、今日は早く寝るとしようか、」

そう独り言を呟きながら眠り、明日を迎えた。

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