第3話 日本で拒食症が増えている理由

 秋田県私立桜の丘女学院、地元でも有名な進学校である。

 一年生の田中さおりさんは、第一志望で見事合格した。

 入学当時の体系は身長155センチ、体重57キロであった。

 そして、入学後はダンス部に入部して、有意義な毎日を過ごしていた。

 しかし、練習中のある日、鏡に映った踊る姿の自分を見て「友達と比べて、自分はちょっと太ってるのではないか?」と気にし始めた。

 さおりさんは、二学期に入ると食事制限と運動によるダイエットを始めた……その結果、二ヶ月後には目標であった体重45キロに到達した。

 さおりさんは喜び、爽快な気持ちを強く感じた結果、もっと痩せたいとダイエットを続行。ついには、一日の食事量が野菜サラダと牛乳をコップ5杯のみと言う生活を続けた。

 その結果、体重が45キロから38キロになっていた。

 しかし、この頃から勉強に集中出来ない、精神状態が不安定になっていった……やがて生理さえも止まってしまった。 


 「…………」


 俺達は秋田に到着。

 上陸祝い代わりに、県内でも有名なきりたんぽ鍋屋で、くるみと派手に舌鼓を鳴らしていた。

 途中、きりたんぽを咥えて「見て、見て、忍者! 水遁の術!」と戯けて見せるくるみをガン無視して、警視総監から送付された資料を読みながら絶句するしかなかった。

 

 「どしたの? 春男?」


 「いや、なんと言うか……ダイエットにそこまでのめり込む気持ちが、俺には正直わからないと思ってしまってな……」


 「春男だから無理もないよね。それがわかってたら、未だに独身じゃないと思うしね」


 「…………」


 くるみは、俺が見た中で一番最高の笑顔でウインクをしていた。


 「……と、ところで日本人に拒食症が増えているって話しをしてたな。どうしてなんだ?」


 「うん……まずはダイエットの低年齢化かな?」


 「どう言う事だ?」


 「そのまんまだよ。女性に対しての評価に関して、痩せている事が良いみたいな風潮があるでしょ? それが小学生の女の子にまで影響して、初めてダイエットに挑戦する年齢が下がってるの。でも、まだ自分で自我がコントロール出来ない時期だから、無計画・無謀なダイエットに走る危険性があるの」


 「そうだよな……」


 「うん。後は少子化による親の過干渉ね。最近は一人っ子が多いでしょ? あ、春男にもわかる様にデータ示すね。現在の日本の出生率は約1.2人なの。これは女性がひとり当たりに産む子供の数の事だよ」


 「……す、少ない気がするな……」



 「だから、子供一人に対しての養育時間も増えてるの。要は子供にかまってあげられる時間が増えると、それが間違った方向に行って、過干渉になりがちになって、なにも自分で決められない子供になると思わない?」


 「ああ」


 「拒食症の主な原因はストレスだから、決められない事が大きなストレスを抱え込む事になる――後は、女性の社会進出が進んだ事が原因だと思うよ」


 「ど、どう言う事だ?」


 「私もたまに感じるんだけど、いくら社会進出が進んだからと言っても、現実の社会では女性の社会進出を完全に受け入れるまでに成熟していないなって……」


 「そうか? 俺個人的には喜ばしい事だと思うし、結構受け入れている会社が多いと思うが?」


 「警察の上の役職には女性ほとんどいないじゃん。会社だって取締役、閣僚だって女性少ないじゃん。春男だって、最初女の私に交渉なんか出来るのか? って馬鹿にしてたじゃん。場当たり的にわかってる様な発言やめてよ。それに春男の周りに女性が近づく事ないのに、なんでわかるの? データは? あるなら出してよ」


 「…………」


 くるみ……お前は意外と最初の俺の発言を根に持っていたのか?

 だが違う。

 俺が問題にしていたのは、お前が子供だと言う事だったんだが?


 「だから、社会に出た女性が理想と現実のギャップに大きなストレスを抱えて、それが拒食症の原因になる場合があるんだよ」


 「……く、くるみは大丈夫なのか?」


 「春男はどう思う?」


 「え? ま、まあくるみはしっかりしてるから大丈夫だと思うが……」


 「……それだよ」


 「え?」


 「その思いこみがあるから、春男は駄目駄目なんだよ」


 「…………」


 「人に対して、外見や表面的な特徴でしか見てないじゃん。私だっていつ拒食症になるかわからないよ?」


 「…………」

 (く、くるみが?)


 さすがの俺も、心の声での呟きに留めた。


 「先生がね、一番拒食症になりやすいのは優等生タイプなんだって言ってた」


 確かにくるみは優等生だが、程が過ぎないか?




 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る