書き出しが書き出しが

@2321umoyukaku_2319

第1話

『KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~』運営担当者は三分以内にやらなければならないことがあった。一回目のお題発表での手違いを修正しなければならなかったのである。

 その人物は第一回のお題を、次のように発表した。

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お題1回目「書き出しが書き出しが『○○には三分以内にやらなければならないことがあった』」

応募期間:2月29日 12:00~3月4日 11:59

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「書き出しが書き出しが」と同じ言葉をうわごとのように繰り返しているけれど、それは大事なことだから二度言いました! なのではなく新型コロナあるいはインフルエンザの高熱に冒され意識が朦朧としていたから! なのでもない。普通の健康状態でも、その人物はうわごとめいたことを常に口走っていたのだった。

 今回も、その手のうわごと系コピペミスをやらかしているので、それを直さねばならないのだ。

 いやいや待て待て、それにしたって三分以内って法はあるまい。もっと落ち着いてやったらどうだい? 直したつもりで直していなかったり、別のところを間違ったりなんてことがあるぜ! といった理性的な指摘はノーサンキューだった。その人物は忙しい。猛烈に忙しい。仕事が他にもあるので、やれることはさっさと片づけなければならないのだ。

 まあ、多忙なだけでなく、三分以内にやってしまわないと何をやればいいのか忘れてしまうという現実的な問題も、あるにはあるのだが……それでも、その人物が時間に追われている理由を知ったら、誰もが納得そして同情すること請け合いだ。

 その人物は全宇宙を滅ぼそうと企む三次元の根源悪、幻魔と戦っていた。そう、今この瞬間も幻魔大戦の真っ最中だったのだ。

 幻魔との戦いは熾烈だ。幻魔が彗星の軌道を操り地球直撃を狙ったときは宇宙空間へ飛翔し超能力で彗星の軌道を再変更することで、世界を滅亡から救った。富士山の大噴火と第二次関東大震災の同時発生で首都壊滅の危機も、その念力で未然に防いだのである。

 それに比べたら「書き出しが書き出しが」と同じことを二度もペーストしたとして、何だと言うのか? 命を救ってもらった相手を責めるのか? 逆にお礼を言うのが良識ある市民の常識というものだ。何だったら代わりに仕事をしてやってもいいだろう。「書き出しが書き出しが」を、もっと入力するのだ。それぐらいなら誰でもできるはずだ。試しにやってみる。

「書き出しが書き出しが書き出しが書き出しが書き出しが書き出しが」

 できたぞ! しかも三倍に増えた! おかげで八百字を越え、千字に到達した。もうちょっと頑張れば一万字を越える!

 それはさておき、その人物の苦労話に戻る。恐るべき幻魔との戦いは、心身を凄まじく疲労させた。普通に休養するだけでは、ダメージを回復させられなくなったのだ。そして、その人物は違法な薬物に手を出した。そうしないと地球と人類を救えなかったからだ! そんなヒーローを誰が非難できよう? 汚れた英雄を叩くことなど、誰にもできやしない!

 それでも法は法なのでお勤めをきっちり済ませ社会復帰してしばらく経った頃、新たなる大問題が起きた。その人物を裏切り会社を乗っ取った弟が東京オリンピックの汚職で取っ捕まったのだ。不出来な弟のために倒産の危機に見舞われた会社を救わねばならない! と、その人物は決意した。正体を隠して昔は自分が社長だった企業へ、日雇いのアルバイトとして潜入しているのが現状だ。一流企業のくせに安いカネで朝から晩までこき使うカクヨム編集部へ回され、こうして『KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~』の運営を任されている。老体に鞭打って働いているので、失敗は多い。「書き出しが書き出しが」ごときは失敗のうちに入らない。本当のミスは締め切りが「3月4日 11:59」ではなく「3月3日 11:59」のことなのだが、記憶力の限界が三分なので、しばらくすると修正すべき箇所がどこなのか分からなくなる。結局、何の修正もしないまま企画概要を発表するのだった。

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