第10話 聖夜前、決意
12月はいよいよ終盤を迎え、あれよあれよという間にもう直ぐクリスマスだ。
俺のような人種とはあまりにも無縁なイベント。
世間がクリスマスで浮き立つ中、独りでいる自分が悲しくなるから、いっその事滅んでくれとすら思う。
いや、そう思っていた、か。
「先輩、クリスマスパーティーやりません?」
「ん それって何人かでやるもんじゃないのか?」
「まあ、基本はそうですね。でも今年は先輩とやりたいです」
「お前の付き合いもあるだろ」
「いえ、別に頑張って維持するほどのものでは無いですし、前日に済ませておきます」
「そうか、ならいいが、今日は何するんだ?」
「買い出しです」
「今からチキンでも買うのか?」
クリスマス前とはいえ、まだ本番までには3日くらいある。
別に今から買っても仕方ない気がするが……
「飾り付けを買うんですよ。折角だしムード出したいので」
わあ、マジでいかにもって感じだ。
「ええと、俺は陰に生きる者だからそういうムードが分からなくて……」
「わかってくださいよ……さ、いきましょう」
「……まあ、分かった」
白椿がそうしたいなら俺も付き合おうと思う。
――これが惚れた弱みと言うやつかもしれないな。
===
「なんかいらないものばっかりじゃないか?」
「装飾は過剰なくらいがいいと思ってるので」
白椿が購入したものは、二人きりのクリスマスパーティーだけに使うとは思えないくらいの飾り付けやパーティーグッズの数々だった。
「にしてもびっくりナイフとかお化けマスクとか要らないだろ。疲れた社会人が変なテンションでやる飲み会かよ」
「……まあ、そんなことはいいです。準備しにいきましょう」
「話逸らしたな」
渾身のボケが躱されてぼくは悲しいです......
「うるさいですねぇ。楽しければ楽しいほどいいんですよ」
白椿は言っている内容の割に真顔を維持して、歩き出した。
===
前に白椿の家に行ってからさほど経っていないのに、再び訪れたこの部屋がほんの少し懐かしく感じられる。
それはきっと、俺が白椿に好意を抱いているからなのだろう。
「先輩も手伝ってください」
「ああ」
作業をしながら、彼女を横目に見ながら思い耽ける。
何というか、昔から白椿茜は真摯であろうとする人だった。
彼女のひたむきさに、思えば俺は昔から惹かれていたのかもしれない。
そんな理屈以上に、彼女の声を聞くと胸が踊る。彼女の綺麗な歌声をずっと聴いていたいし、いつまでもからかわれていたてもいいなと思う。
知りたい。
知った上で、向き合って、彼女の抱えるものでさえ、抱き締めてあげられたらと俺には届かないとしてもそう思ってしまう。
それなのに、俺は今、逃げている。自分の気持ちから、彼女の背負うものから。
それは、もう今年のクリスマスを最後に辞めるのだ。
「なあ」
「何ですか?」
「パーティやる前にさ、夜景が見える所で、大事な話をしないか?」
そう俺が口にすると、一呼吸分よりさらに長い、永遠にも感じられる間が空いた。
「はい。分かりました」
彼女の声はどこか冷えていた。
――先輩も、そうなんですね。
白椿は、そう独り言を口にした。意味はよく分からないけれど、きっと、俺の意図は多分彼女には筒抜けなのだろう。
===
「こんなとこですかね」
「おお……すごいな」
百均で揃えたもので飾り付けただけなのにこの部屋はパーティー会場さながらに華やかな内装になっている。
いや、実際にパーティー会場ではあるのか。
「へへ、じゃあ明後日のクリスマスに向こうの展望台に集合ですね」
「ああ」
===
まだ曖昧なままで、言葉にしないままでいいと思っていた。けど、俺はどうしようもなく白椿茜を俺は恋しく思ってしまう。
伝えたら失ってしまうとしても、それでもいいと思えた。
それに、カラオケから帰る時の彼女は助けを求めているような気がした。
俺の事を教えて、とも彼女は言った。
なら答えも、明後日言うことも、決まっているだろう。
応えるだけだ。
明後日、全て決まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます