第8話 ゲーセンにて儚さを知る

「先輩、この服可愛いですか?」


 憂鬱な平日を終えて土曜日。


 俺と白椿は、うちの市で一番大きなショッピングモールを訪れている。


 それで、今はモール内のアパレルショップにて、白椿の服を選んでいる。まあ、俺は俺の好みに応じてYESかNOで答えるだけだ。


 白椿が今試着しているのは、暖色系ではあるが落ち着いた配色のオーバーサイズのコートと、編み込みの入った白いスウェット。


 女子高生としては大人びた印象の着こなしだが、彼女は女子としては身長が高い部類で、童顔という訳でも無いのでこういうのもいいなと思う。


 文句なしでYESだ。


「いいと思うし可愛いというか、綺麗だと思う」

「き、綺麗ですか?」


 俺は彼女のことが好きだ。だからこそ、今はこのままがいいと思ってしまう。


 とはいえ思ったことは素直に言うし素直に褒めていこうと思う。


「ああ」

「そうなんですね! 童顔低身長の先輩とは違って大人の雰囲気漂っちゃいましたか」

「童顔低身長は余計だろ」

「そうです? 私は可愛くて好きなんですけどね」


 女子の言う可愛いは誉め言葉だーとかよく言うけど余裕で嘘だと思う。そうやって見下した風にニヤニヤするのやめてくれぇ!


「だから、俺をおちょくるのはやめろって。で、結局それにするのか?」

「はい。値は張りますけど一番好感触だったので」


 誰の好感触かというと、それはきっと言うまでもない俺のこと。


 だからこそ、一つ疑問が浮かんだ。

 

「俺ほんとにファッションとかわからないんだけどそれで良かったのか?」

「はあ……」

「なぜにため息」

「なんというか……まあ、あのですね、こういうのは先輩みたいなど素人の直感がものをいうんです」

「そうか」


 そういうものなのか。


「行きますよ」

「次はどこ行くんだ?」

「ゲーセンです」


===


「私は向こうでぬいぐるみ取ってくるので先輩は勝手に時間潰しといて下さい。まあ、ついて行ってくれてもいいんですけど」

「俺がぬいぐるみのやつやるのもなんか気まずいし、俺は別のやつやるよ」

「まあ、それもそうですね。一旦別れましょうか。でもすぐ戻ります」


 ショッピングモール内にあるこのゲーセンで、良さげなものを探していると、ガールズバンドをテーマとした人気アニメのフィギュアが景品のクレーンゲームが丁度あった。


 やるしかない。


 俺は余裕の笑みで機体に百円玉を投入した。


===

 

 俺の小銭はもうゼロだ。


 そもそも、流行りのアニメのフィギュアが取れるクレーンゲームの設定なんてどう考えても終わってるのだ。


 何とか目当てのフィギュアをほじくり出そうとするも、やればやるほど状況は悪化するばかりだった。


「戻りましたーそっちはどうですか――ってうわ、先輩終わってますね」


 先ほど取ってきたらしいぬいぐるみを携えた白椿は俺を見るなりそう言った。

 

「ドストレートな悪口だな」

「いやだってセンスも金遣いも終わってますし」

「両替両替っと」

「いや話聞いてます?」

「聞いてる。けどな、もう一回、もう一回やれば掴める気がするんだ……」


 実際、一度やれば抜け出せない中毒性がこれにはあった。

 

「はあ……ならその両替したお金、貸してください」

「お前、まさか……」

「はい。余裕で取ってあげます。流石に見てられないので」


 そして、白椿は千円も使わずすぐにフィギュアを取って見せた。


「天才か?」

「どちらかというと多分先輩にセンスがないだけですね。そんなに特段取りづらいってわけでもなかったです」

「まじかよ……」

「まじです」


 お金の儚さと自分の無力を知る、そんな体験だった。


「じゃあ、そろそろご飯に……」

「え、プリクラ撮らないんですか?」


 そう言って白椿が指差す先には俺が完全に思考から追いやっていたそれが堂々とあった。


「あ、忘れてた」

「行きましょう。お金は私が負担するので」


 白椿は俺の手を引いてプリクラへと向かう。俺達はきっと周りからすると今青春を満喫しているように映るだろう。



 ちなみに出来上がった写真は白椿の落書きが過剰すぎてだいぶアレな感じだった。


 こんなもんなのか?

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