第4話 冬の花火
カフェの次にやってきたのは意外にも閑散とした公園だった。
日は既に暮れかけていて、静寂が俺たちを包んでいる。
「何するんだ? こんなところで」
「ふふん、よく見といてください」
白椿はおもむろに大きなビニールの袋を取り出す。市販の花火だ。
「......大丈夫か?」
今のご時世、そういうのに厳しいし。
「ま、大丈夫ですよ。こんな時間にガキは来ません」
嬉々として花火を大量買いしてるお前も割とガキだよと言いかけたけどやめておく。めんどくさいし。
あと、誰かに通報されて警察は来るかもしれない。
「口悪いな......まあ、折角だから俺も童心に帰るわ」
「そう来なくっちゃです」
白椿はいつものように笑う。
確かにここまで来たのだから楽しもうと思う。花火ってなんか青春っぽいし。
最初に彼女は途中で色が変わるタイプの花火を取り出して俺に手渡した。
白椿は花火と一緒に買ってきたらしいチャッカマンを手にし、点火し、俺もそれにならう。
すると、まだほんの少しだけ明るい公園に赤、緑、とカラフルに花火は輝き出す。
「わー、なんか雰囲気いいですね。私たち、青春してません?」
そう言って、楽しそうに踊る彼女は小さな子どもみたいで危なかっしかしい。
けど、それも可愛いと思える。
「ふふ……綺麗ですね、先輩」
「ああ。久々にこういうことやった気がする」
「まあ、そうですよね。私、実は初めてで、ずっと友達と花火、やってみたかったんです。付き合ってくれてありがとうございます」
それはいつもと違う寂しげな笑みだった。
それでも、花火を握る彼女の横顔は綺麗だ。
それからも、白椿と俺は持参した沢山の花火を夜の公園に輝かせる。
そうこうしているうちに、ついに袋の中は線香花火だけとなった。
「最後は線香花火、だよな」
「ですです。終わりにふさわしいですよね」
「絶妙に不穏な言い方だな……」
もう完全に夜だ。
白椿と俺は線香花火を取り出し、火をつける。
消えかけの火がパチパチと光る。
「先輩、今日はありがとうございます」
「いや、感謝されるような事じゃない。むしろ嬉しいくらいだ」
「嬉しい、ですか?」
「ああ、今日は白椿のお陰で色々なものを知れたと思うし。俺なんかとありがとう、だ」
「......そんなこと、言わないでください。『俺なんか』じゃないです」
それについては反省する。
少なくとも、それは俺と友達でいてくれる人に失礼な態度だった。
「ごめん……でも今日は楽しかった。それも本心だ」
「私、馬鹿なのでそれ信じちゃいますよ?」
「全然信じてくれ。だって俺たちは友達だしな」
「まあ、そうですね」
花火が落ちる。
「だからさ、またこうやってたまに遊ぼう」
「なら、約束です。今後も、お互い暇な時は私が付き合ってあげます」
「白椿、ありがとうな」
「......私からも、ありがとうございます」
今は詳しくは見えないけど多分彼女の顔は赤い。
「では、先輩、これからもよろしくお願いしますね」
白椿は、はにかむように笑う。
辺りは暗いけど、白椿のその笑顔だけはどうしてか明るく映った。
片付けを終えると、彼女は直ぐにまた足早に去っていく。
けど、一人で帰らせるのもなんだか忍びないので、彼女について行くことにしよう。
「駅まで送るよ」
「……」
「なんで無言?」
「先輩、実は優しいんですか?」
「失礼だな、優しいよ」
「そういう返事、なんかダサいので減点です。調子乗らないでください」
「酷い……」
まあ、これからの俺の毎日はきっと変わるのだろう。
俺にも青春がやってくるのだ。
そんな予感がする。
===
白椿と別れ、自宅の自分の部屋に戻って時間を確認すると、時間はまだ18時だった。
この時期の夜は早いなと思う。
ふと、スマホの着信音が鳴る。
『今日は楽しかったです。また明後日』
可愛らしい絵文字と共にそんな内容が送られてきた。
明後日......? 普通に学校、だよな?
また、眠れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます