第3話 友達と焼きプリン
昨日はあまり寝られなかった。
何せ、中学からの仲とはいえ、後輩の美少女に嘘告され、更に「友達として」遊ぶ約束まで取り付けられたのだ。濃い。
更には、嘘告は照れ隠しかもしれなくて......
いや、過度な期待は辞めよう。まだ確証は無いから。
待ち合わせの約束をしている駅前には着いたので、俺は昔に交換だけして昨日まで全く使っていなかった白椿とのトークルームを開いてメッセージを送って置く。
『着いた』
『先輩!? まだ15分前ですよ? ちょっと早くないですか?』
『カフェの近くのベンチにいるから』
『はい』
お前も返信早いなと思いつつ、白椿が来るのを待つ。
白椿にも指摘された通り、約束の時間の14時まではまだ少し時間があるが、ギリギリの時間に来てもなんか怒られそうで怖いから仕方ない。
朝やるのを忘れてたソシャゲのデイリーをやって時間を潰すとしよう。
そう思って適当にスマホをいじっているともうそろそろ約束の時間だ。
その矢先、私服姿のオシャレ女子が足早に方で息をしながらやってきた。
「白椿!?」
明らかにかなり急いでここに来たみたいな様子の白椿だ。
「はぁ......先輩、時間にめちゃくちゃルーズなタイプだと思ってたのに早いんですねね......」
「まあ、遅く来ても失礼だし」
「私は15分くらいなら遅れていいかなーって思ってたのに......」
「お前も割とルーズだな......でもそこまでして急がなくてもいいのに。俺は気にしないし」
「それはそれで私が先輩より優位みたいで嫌なので。私たちは友達ですよ? フェアで行きましょ。お互いに」
そう言って彼女は少しだけ笑う。
そうだった。彼女はからかい癖がある生意気な後輩だけど、それだけじゃなく、人と対等な関係を築こうとする。そうできる。
白椿茜は、そういう人なのだ。
「ああ。やっぱり白椿って良い奴だよな」
「そ、そんなことないですよ。ほら、行きますよ」
また少しだけ耳が赤いのを俺は見逃さなかった。どうしてかは分かる気がするけど、正直確証は持てない。
けど、その理由が本当俺への好意なのだとして、嘘告が照れ隠しだとするなら......それはそれで俺自身もちゃんと向き合うつもりだ。
そして駅前のカフェに向かう。そう、オシャレであろうカフェに......ちょっと怖い。
===
「いらっしゃいませー」
店内は若者向きのキラキラしたオシャレなカフェ、という印象とは少し違った。
オシャレではあるけど、でもどちらかと言うと喫茶店に近いような落ち着いた雰囲気だ。
「先輩、もしかして、ここ来るの初めてですか?」
「まあ、恥ずかしいことにそうだな」
「実際、割と恥ずかしいですね。まあ、一応言いますけど、身構えなくたって大丈夫ですよ。値段は少し高いですけど素朴な感じで人気なところなので」
店内を見回してみると、確かに学生だけでなく、スーツを着た社会人らしき人たちの姿も多く見える。
「そうだな。俺も認識を改めるよ」
「よろしい」
認識を改めた所で、まだ分からないところがある。
「で、何を頼めばいい?」
「メニュー見てから言ってください......まあ面倒臭いのか。それなら私的には王道にお求めやすい焼きプリンがオススメです! 勿論、カップル向けのもありますけど、どうですか?」
「真顔で言われても困る。頼まねえよ」
「えー。なら焼きプリンにします。先輩もそれでいいですよね?」
「ああ」
そんなこんなで、俺たちは2人揃って焼きプリンを注文した。
「お待たせしましたー」
運ばれきたそれは、思っていたよりもサイズは小さかった。
それでも焼かれたカラメルの香ばしい良い香りが香り、添えられたバニラアイスもちゃんと美味そうで食欲がそそられる。
手を合わせ、1口目を口にすると......
「うま!」
「美味しいでしょ?」
「ああ、それもめちゃくちゃに美味い」
「喜んでもらえて私も嬉しいです! 先輩はこういうの好きそうなので、焼きプリンにしましたけど、これ以外もめちゃくちゃ美味しいのでまた来ましょうね」
全然また来る。これだけ美味いと学生以外にも人気な事にも頷ける。
「また白椿と、か?」
「はい。私がいないと先輩何も分からなそうなので」
そう言って白椿は100点の笑顔で笑う。それが可愛らしくて、こちらも赤くなってしまう。
「おー、赤くなってますねー。安心しました」
「そういうの、勘違いするから辞めろよ......」
「寧ろ勘違いしちゃってください。先輩絶対チキンなので見てる分には可愛いですから」
「可愛い言うなよ......」
「そうやって拗ねちゃう所もわりと好きです」
そうやってからかわれながらも、何とか完食する。
「あー美味かったー」
「ですよね。それじゃあ、今からどこ行きましょうか」
「まだ続けるのか?」
「はい。むしろここからです」
今日はまだしばらく、白椿に振り回されそうだ。
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