第43話 二つの世界を元に戻す方法はエッチすることです


「ぐわぁああああああああああああ‼」


 佐渡さんの胸に刺さった白銀の槍が佐渡さんの中から角が折れた女性を引き剥がした。

 佐渡さんは意識を失ったまま、その場に倒れる。

 その上空、苦渋の顔をした魔王の薄い実態が空に浮かんでいる。

 うわー、本当に魂とかあるのかー。

 うん、本当にこの世界ってファンタジー。

 さらに、体育館のドアがぶち破られ、田辺先輩が昇天したアヘ顔で転がって来た。


「パパ、ママ!」


 ミミがぴょんぴょんと駆け、遥の胸に飛び込んでくる。


「大丈夫だったか」

「うん!」


 満面の笑みを俺に向ける。


「よくやった」

「えへへへ」


 ゴロゴロと喉を鳴らし、ミミは喜んだ。

 そして――。


「あぁ! もう終わってる!」


 残念そうな顔を浮かべその手に木刀を持った刀華先輩とどんなことが合っても笑みを崩さない知世先輩が入って来た。

 これで全員が終結した。

 聖牢の槍が姿を変え、次第に魔王の体に包み込んでいく。


「君にしては成長したじゃないか。ほんの少しだけしたたかになれたね。まぁ、それでも今回も私たちの勝ちだったけど」


 うんうんと、刀華先輩が顎に手を当てて笑う。


「ふっ、ふはははははははは」


「何がおかしい」


「あぁ、負けたよ。私の負けだ。今回も完敗だったよ。だが――、この現実世界と異世界は繋がった。これを元に戻すことは不可能だ。私は永遠の時を過ごすことになるだろうが、世の中の混乱は避けられないだろうなぁ! 次第に大量の魔物がこの世界になだれ込み、この世界の人間を殺す。混乱は避けられない! 私は、タダでは終わらないぞ! ふははははは!」

 

 魔王は球体に飲まれ、ポトンとパチンコ玉のようになってその場に落ちた。


「――――っ‼」


 確かに魔王が消えた後も、魔王城は消えず、元の学校の姿には戻らなかった。


「どうすればいいのでしょうか」


 遥がエルマ様を見て言う。


「あぁ、えっと、その……女神は二つの世界を移動させるだけで、繋げるなんてそんな荒業を仕事にはしてないのよ。だから……直すのは無理」


「「「「「………………………」」」」」


 俺たちは頭を抱えた。

 すると――。


「安心しろ」


 刀華先輩の後ろから、ゆっくりと歩いてくる魔法使いの少女と大盾を持った筋骨隆々の女性がやって来る。そう、あれは夢で見た――。


「ニトとヴィクター……」

「久しいな、トウカよ」

「久しぶりだなぁ、私の親友よ!」


 ガシっとヴィクターが刀華先輩の肩に手をかける。


「二人ともどうして」

「どうしてって、カカカっ! 魔王城に超絶な魔力反応があったから調査がてらに急いで来てみたのさ。そしたら、ハルカの匂いがするってニトがうるさくてよぉ!」

「黙れ、言うな! 脳筋!」


 ニトがヴィクターに蹴りをいれる。


「ヴィクター様だってんだろ、チビ助!」

「チビ助言うな!」


 二人は睨み合っていたが、ニトがごほんと咳ばらいをし、場を仕切りなおすために、トンと杖を地面に叩いた。


「さて、お前たち。私は天才だからこの状況をよく理解できる。簡単に説明すれば、魔王は我らの世界とこちらの世界を繋ぐ穴を魔力だけでこじ開け繋げるというバカげた脳筋プレイをしてくれた。そのおかげで二つの世界を繋ぐ次元の穴は割れた鏡のようにぐちゃぐちゃだ。魔王の言う通り、その割れた鏡を正確につなぎ合わせ歪んだ次元の穴を正常な状態に戻すのは困難だ」


「では、どうすればいい。何か方法はないのか」


「なに、安心しろ。一つだけ方法がある。これはぐちゃぐちゃな絵が描かれたキャンパスの上に新しく綺麗な絵を描くようなものだ。要はぐちゃぐちゃになった次元の穴を上書きして新しく作り直せばいいということだ。それには魔王が使った以上の魔力が必要だがな」


「そ、そんなことできるのか?」


 むふっとニトは誇らしげに笑った。


「もちろん、魔王を倒し、世界にその名を轟かした神に最も近しい叡智なる天才魔術師ニトロ・ヴィ・リュミエールにならできないことはない! なっはっはっはぁ!」

「そのくせに考えが脳筋だけどなぁ‼」


 ヴィクターがカカカっと笑う。


「うるさい! 黙れ、この馬鹿!」

「じゃあ、その膨大な魔力はどこから持ってくるんだ?」


 ニトは地面に転がったパチンコ玉を手に取る。


「必要な魔力の半分はこの銀の玉になった魔王を使う。残り半分はここに来る前に爆発的に発生した魔力を使う。それを先程発見した」

 

 すると、ニトは俺を指さした。


「大変不服だが、聖愛の契りでハルカのパートナーになったそこのお前」


 そして、遥を見て下唇を噛み、俺を睨んだ。


「は、はい!」


「ハルカと全力でイチャイチャしろ。それが残り半分を埋める方法だ………」


 俺と遥は顔を見合わせ――。


「「ええええええええええええええええええ⁉」」


 と魔王城に俺たちの声が響き渡った。


――――――――

明日は歓喜。

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