第42話 ※(R)遥のNTR闇落ち⁉ いや、遥に手を出した奴を捻じ伏せる

 時刻は少し遡る。

 景太が図書館から飛び降りた後のことだ。

 遥は体育館の舞台の上で眼を覚ました。

 

 だが、手足が手錠で椅子に拘束されており身動きが取れない。

 記憶を探ってみると――、イベントが始まった瞬間。

 クラスメイト達が植物の蔦に巻き付かれ、昏睡した。

 

 そして、遥の席に転移魔法が施されており、体育館に転移した。

 そこで待っていたのはサディだった。そこからの記憶はない。

 時計を見れば、イベントが開始してから三十分が経過していた。


――そうだ。急いで景太に私の居場所を伝えないと……。


 だが、念波を送ろうとしても異常なほどに体が怠い。どうやら、この手錠が魔力の体内循環を乱し、酔いのようなものを生み出しているようだった。

 さらに、物凄い勢いで遥の魔力を吸い出していた。


「ようやく眼を覚ましたか、聖女よ」


 カツンと体育館に軽快なハイヒールの音を響かせながら、スポットライトに当てられたサディが歩いて来た。スポットライトが当てられたことで体育館の全容が明らかになる。


 舞台の観客席だった物が無くなっており、サディの歩く場所はレッドカーペット。さらに遥は煌びやかな玉座に座っており、その光景には見覚えがあった。

 異世界で見た魔王城だ。


「あなたは……、やはり……魔王ですか」

「くくっ。今さら気づいても遅いが。そうだと言っておこうか」

「こんなことをして一体何をするつもりですか! イベントの開催者の人たちの想いを踏みにじっているのですよ! しかも、他人の体を借りて……自分のやっていることの罪深さを理解しているのですか⁉」

「そんなこと……、これから世界を支配することになる王にとっては些末なことだ」


 サディは舞台に上がり、遥の顎をクイッと持ち上げる。


「お前にはそのための礎になってもらう」

「私はあなたの想い通りには決してなりません! 異世界にいた時も、この世界でも!」

「ふっ。その威勢がいつまで持つか楽しみだ」


 サディはビリッと遥の上着を破り捨て、魅惑の体が露わになる。


「…………っ⁉ な、なにを……!」


 サディは遥の後ろに回り、抱きしめて胸を鷲掴みにした後、遥の耳を口に咥えた。


「……っぁ!」


 そのままサディは遥の首筋を舐めると、遥の体が火照る。


「んっ……。こ、こんなことをしても……無駄……です……から……っ‼」

「それはどうかな?」


 チョンとサディが遥の胸の先端弾くと――、遥の体に快楽の電撃が走った。


「ぁ……あああ!」

「なんだ、胸が弱いのか」


 今度はサディがブラをつけた両胸の先端をカリカリッと爪で引っ掻く。


「んんぁ! そんなに……強く……!」


 遥の意識がうっすらと飛びそうになってしまう。


「ど、どう……して……」


 遥は自身に掛けてる加護、そして、景太との繋がりである【性なる守護】によって守られている。さらに魔族であるサディに聖魔法は毒だ。ミーアの肌を焼いたように、サディにも同じようになるはず。

 つまり、遥に触れることはできないはず……だった。

 遥は自分に掛けられた手錠をちらりと見た。


「あぁ、そうだ。他の人間から集めた魔力で作った特製の手錠だ。魔力を奪い取り、あらゆる加護を打ち消す……【堕落の手錠フォールンダウン】とでも名付けておこうか」


 遥の背筋が凍った。

 サディの言う通りであれば、現在、自分を守る術を遥は持っていないのだ。

 サディのなすがままに弄ばれるしかない。


「察しが良くて助かる」


 サディは不気味な笑みを浮かべ、遥の秘部へ手を伸ばす。


「や、やめて……」

「やめると思うか?」


――くんっ。


「んんっ‼」


 遥の視界がぼやける。

 しかし、景太のことを思い出して、歯を食い縛った。


「しぶとい奴だ。これならどうだ?」

「ぅぅぁ」


 執拗な攻めに顔を歪める遥であったが、遥は息荒げにサディに笑って言う。


「……その程度ですか? 景太の方が何百倍も上手でしたよ? へたくそ!」

「な、なんだとぉ⁉」

「あなたには愛がないから。自分のことしか考えていないそんなあなたに私は屈しない!」

「黙れ!」

「っぁ!」


 遥の威勢は良かったものの、サディのしつこ過ぎる攻めに限界が近づいていた。

 遥は景太が助けに来るのを期待して堪えていたが、次第に意識がまどろみ何も考えられなくなっていく。


「けいた……、はやく……」


 サディは頃合いだと思ったのか、ダイヤモンドのように透き通る眼でスキル【搾取の契りドレインコントラクト】を発動させる。


「なんだ、お前にもあるじゃないか……、心の闇が……」


 そして――、サディが遥の顔を前に向けさせた。

 そこには景太とミーアがいた。


「け、けいた……、助けて……」


 だが、愛しの彼は言った。


「遥、俺は他に好きな人が出来たんだ。身躾みだしなさんとこれから付き合うことにした」

「ど、どうして……」

「どうしてって……、身躾みだしなさんの方が魅力的だからだよ」

「告白をしてくれた時、ずっと私のことを思ってくれるって約束……したじゃないですか……」

「それは過去のことだろ……。今、おれは身躾みだしなさんの方が好きなんだ」

「う、うそですよね? 嘘って言ってください! 景太はそんな人じゃないはずです」

「人の気持ちは移ろい変わりやすいものだよ」

「そ、そんな……」

「天音先輩? 敗北者の味はどうですか?」


 プークスクスと身躾みだしなさんが景太の第二ボタンを奪い、景太が身躾みだしなさんの第二ボタンを貰った。


「大逆転ですね。天音先輩……、これが現実です。……ざぁこ♡ これから八代先輩の初めてを貰います。残念でしたー。私の勝ちー」


 そして、景太とキスをする。

 ズキリと遥の心に亀裂が入った。

 ガラガラと今まで一緒に築き上げた物が崩れていく。

 大好きな人を寝取られるという深い悲しみ。

 遥の瞳からぽろり、ぽろりと涙が流れた。

 好きな人を奪われた悲しみは何物にも代えがたかった。

 ガクリと項垂れ、自分の心が黒く染まっていくのが分かる。

 そして――、


「堕ちろ、聖女。これで――、私の――」


 サディが笑みを浮かべ、遥の顎を持ち、その唇を――。


「いや、俺の彼女に何してんだ、お前」


「な、なにぃぃぃぃぃいいいい⁉」

 

 サディが後ろを振り返るとサディの肩に手を置いてにこりと笑う景太がいた。

 時代劇で使われた舞台装置だ。

 根城の裏から回り込み、舞台の下から上に出てきた。

 そしたら、自分の彼女を虐めているやべー奴がいるのだ。

 許せるわけがない。

 そして、渾身の拳をサディの顔面にぶちかました。

 いつもの三倍、いや、十倍、いいや百倍の力が出た。


「がはぁぁぁあああ!」


 サディは壇上から体育館の入口まで弾き飛ばされ、壁に打ち付けられ、血反吐を吐いて倒れた。景太は自分の制服を遥にかけ、虚ろな瞳をした遥を抱き寄せる。


 そして――。


「んんんっ‼ んんん⁉ ふっは! んんんんんんん⁉」


 きっと一生に一度しか訪れない熱くて、熱すぎて、蕩けてしまいそうなキスだった。遥の虚ろだった眼に光が灯る。


「け、けい?! んんん! どうし……」


 息つきもままならない。だが、自分の大好きな人がこんなに熱く求めてくれることに心が一杯になった。いつも優しくキスをしてくれる彼だが、たまにはこんなに乱暴に情熱的にキスをされるのも悪くない……いや、景太限定で大好きだった。

 

 景太に染め上げられていく自分に遥は心地よさを感じていた。

 さっきのは幻想だった。

 そうだ、そんなことあるわけがない。

 自分の彼はやっぱり、自分が信じた彼だった。

 もっと、もっとして欲しい!

 自分の体から熱く、爆発的な魔力が溢れ出て来る。

 ふわりと高らかな世界に昇っていくような感覚。


「ふぁ………ぁぁぁ……」


 サディのしたことなどあっという間に上書きされてしまった。


「け、景太……」


「ごめん、遅くなって」


 遥は景太を見ると首を振って、大粒の涙を流した。


「いいえ。本当に来てくれてありがとう」

「めっちゃいい物を見せてくれたから、あなた達に魔法を授けます」


 すると、空に浮かびながらサムズアップをして鼻血を垂らしている女神が一人――エルマ様である。


「良い男性を見つけましたね、遥さん!」

「……はい」

「熱いキスOK。本当だったら、その先も上等よ ! 私が許すわ!」

「え、あ、その、それは……」


 しゅ~と遥と俺の頭から湯気が出てくる。


「いや、それより。なんでエルマ様が!」


「遥さんとこの学園の生徒達の生命力、つまり魔力を使って、さっきそちらの世界と私たちの世界が完全に繋がったの。それで私も遥さんに干渉できるようになって……。本当に色々とやってくれたわね」


 エルマ様がまだ意識が回復せず、地面に突っ伏しているサディを見る。


「あいつは魂を滅したとしてもだめ、滅する前に転生し、また同じことを繰り返す可能性がある。だから――」


 エルマ様は俺と遥と手を繋ぎ、魔法を授ける。

 すると、俺たちの目の前に一本の白銀の槍が現れる。


「聖牢――、これを彼女の胸に突き刺しなさい。魔王である彼女だけを永遠の魂の牢獄に封じ込められるわ」


 景太は槍を手に持ち、サディを見据える。

 サディは足をガクブルと震わせながら、立ち上がるとこっちを見た。


「く、くそぉぉぉぉぉおおおお‼ またこんなところでぇぇぇ!」


 サディは歯を食いしばり、一歩足を踏み出したが、刀華が仕掛けた結界を踏んでしまった。


「バ、バカなぁぁぁ‼」


 光の糸がサディの体に張り巡らされ、動きを封じる。


「さぁ、これで最後よ」


 エルマ様の声と同時に俺は壇上を飛び――――、


「もう、二度と俺たちの前に現れないでくれ」


 白銀の槍を一投。


 そして、サディの胸に突き刺さった。

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