第31話  (R)ミーアはペットを使って自分の気持ちを確かめて決意する〈ミーア視点〉

 病院で頭と首の処置をしてもらったミーアは、家に帰って来た後、失意に打ちひしがれていた。


絶対魅了アブソリュートエンチャント】を掛けた人間に殺されかけたのだ。

 

 また失敗であり、屈辱である。


【絶対魅了】に掛かった人間はミーアに人間としての性の欲望を存分に引き出され、ミーアの従順なペットになる。ちょとしたハイ状態になり、催眠下に落ちる。

 だから、命令を拒否することなんてあり得ない。


 ミーアは御子柴に犬になれと命令した後、その夜に体を重ね合いミーアにしか興味がでない体にさせるつもりだった。

 現に御子柴が満足いくまで何度も体を重ね合い、今まで通りであれば、催眠下にあることは明白だった。


 だが、自分のペットにしたはずなのに、行為を終えた後も語るのは聖女のことだけであり、ご主人様以外のことを嬉々と話す御子柴にイライラが募っていた。


 そして、聖女のことで頭がいっぱいの御子柴に。


「そんなに聖女のことが好きなら自分の好きにすればぁ⁉」


 と突き放したのだ。

 ミーアは超絶不機嫌になった。

 さらに聖女に会いたいと懇願こんがんされたため、文化祭の集まりのことを教え、当日はお弁当の配送者として潜り込んで、聖女を自分の物にすればいいと命令を告げた――だが、なぜかこうなった。


 聖女を自分の物にすればいいと命令したからと言って、生徒が文化祭の準備をしている家に金属バッドを持って真正面から殴り込み来る奴がいるか? 


 もっとスマートに聖女をおびき出し、隠れて始末するという頭がないのか?


 それで圧を掛けられた結果、錯乱し主人を人質に取って傷つけるとか本当に……。


「なんなのあいつ! 頭おかしいでしょ! バカ!」


 パタンと自分のベッドに仰向けに寝そべり、深いため息をつく。


 

――これは事故よ。数百年に一回起きるかどうかの事故。


 いや、御子柴の聖女への想いが異常だったのだ。スキルの呪縛を凌駕するほど、聖女のことを溺愛していたのだ。

 

 あいつは例外よ。


 ミーアはグッと体を丸め、抱え込む。

 だが、あのまま殺されていたらどうなっていたのだろうか。


 ふと、景太に助けられたことが頭に蘇る。

 聖女の加護を受け、人間を凌駕している力を身に付けているとはいえ、自分より下位の存在だと思っていた者に助けられるとは思わなかった。

 


 異世界で誰かに助けられたことはあったかと思い返してみたが、思い浮かぶのはミーアの上で躍り狂う男だけ。無様に地べたに這いつくばり、ミーアをご主人様と崇め、求めるだけのペット達。

 男はそれで良い、それが男だと思っていた。

 そう、思っていたはずなのだけど、自分を助けてくれた時の景太が脳裏に浮かぶ。


「格好良かったかも……」


 はっと自分が発した言葉にミーアは驚いた。

 そして、自分の胸が高鳴っていることに気づく。

 景太の顔を思い出すと頬が熱くなる。

 え、あ、う……、噓でしょ?

 私がペット候補に……⁉

 ありえない、ありえない!

 

 ミーアは気を紛らわすためにスマホを見た。

 同じD組のグループから心配の言葉が多く寄せられていたが、景太から届いてはいなかった。そりゃ、景太と連絡先の交換はしていないから来ているはずがない。

 ただ、無性に景太から連絡が欲しかった。

 ミーアは自分の心の内にある疑念を再度首を振って振り払う。


「なんか……、ムラムラしてきた」


 ミーアは適当にグループに返信してから、最近自分のペットになった先輩に「しよ」とメッセージを送る。すると、すぐに「今から行く」と返答が帰って来た。


 この先輩は身躾グッドスマイルカンパニーの課長の息子であり、会社のパーティーで親と一緒に付いて来ていた所、ミーアのことをチラチラと見ていたから、ペットにしてやったのだ。

 

 どうやら当の本人には彼女がいたらしいが、ミーアと体を重ねる背徳感に溺れ、いつも以上の絶頂を迎えると従順なペットに成り下がっていた。


「まぁ、彼から精を絞れば、少しは傷の癒えも早くなるでしょ」


 ミーアは自分の首と頭につけてあったガーゼと包帯を外し、彼を出迎えるために最上級のおめかしをする。


 これから来るのはペットだとしても、男だ。

 

 美しくない自分を見られたくない。

 怪我をしたところも化粧で上手く誤魔化す。


 男を魅了するために最高の自分を仕立て上げる。

 

 それがミーアのプライドであり、礼儀だ。


 魅了のスキルがあるから男が寄って来るわけではない。

 スキルが無くても数多の男を引き付ける美がミーアにはあった。


 彼は三十分も経たずにミーアの家までやって来た。


 感じの良い好青年だ。

 透けたネグリジェに着替えていたミーアは玄関先で挨拶代わりのキスをすると、すぐに彼のスイッチが入った。

 ミーアを床に押し倒し、ミーアの胸に顔を埋め、乱暴に服をビリビリに破いて脱がす。


――あっ、結構高いやつだったんだけどなー。


 彼のために精一杯おめかしした女の姿を褒めず、本能のままに突き動く彼に少し冷めた。

 

――まずはご主人様を褒めるのがペットの役目でしょうが。

 

 そんなミーアの想いなど知らず、彼はミーアをあられもない姿にしていき、体を貪る。  


 ミーアはそんな獣のような彼の頭を冷めた眼をして、撫でてあげた。


身躾みだしなさん、身躾みだしなさん、身躾みだしなさん‼」


 彼は満足いくまでミーアの体を堪能した後――――。

 

「ぃたぁ」


 まだ濡れてないからか、今日は頗る痛かった。

 いつもはそんなことはないのだが。

 だが、彼は顔を歪めるミーアなどお構いなしに。

 早々に、勝手に、果てる。

 早い方が気が楽だし、傷も早く癒える。

 だが、ミーアの満足には程遠かった。


 さらに、二人でお風呂場へ行き――。


「み、身躾みだしなさん! 僕は……もぅ……!」


――ほんと、ヘタクソ。こいつこんなにヘタクソだったっけ?

 

 こいつも潮時かしら。

 そんなことを思いながら、ミーアは一向に濡れない体をどうやって濡らすのかを考えた。

 ふと、彼を景太に頭の中で置き換えてみた。

 すると、急に――。


 な、なにこれぇ……。

 ミーアの快感が最頂点に達した。


「どうしたの!? 身躾さん!!」


 ミーアは彼の背中に手を回し、しがみついて言う。


「こんなに気持ちいいの、初めてだよ。せんぱい♡」


「!!!」



~【自主規制(ミーアの置き換えが捗っています)】~



 枯れ果てた彼を見て思う。

 ベッドに裸で仰向けで寝ている彼には何の感情も湧かなかった。

 あえて言うなら自分の目の前で可愛く餌を求めるペットくらいだ。

 だが、景太にされていると思うと妙に濡れてしまっていた。

 いや、今までしてきたどんな男よりも感じてしまっていた。

 自分が、体が、景太を求めていた。

 そう、これってやっぱり……。


――とりあえず、このペットはもういらないわね。


 そして、ミーアは気づいてしまった。

 景太に抱いた気持ちはペットに抱く感情ではないことに。


「ほんと、あり得ないわ」


 そして、聖女と仲良くしている景太を思い出して、特大の嫉妬心が巻き起こる。

 彼が聖女に向ける笑顔と自分に向ける笑顔は違う。

 そもそも、彼は美しい自分には見向きもしないのだ。

 ムカつく、本当にムカついてくる。

 聖女がいなければ……。

 聖女さえいなければ……‼

 そうすればきっと――――‼

 

 彼は自分のものになっていたに違いない!

 聖女よ、そこをどけ‼

 彼の隣にいるのは自分だ‼


 だが、ミーアは聖女の加護によって守られている景太に触れることができない。


 でも、例えそうだとしても――。


「聖女から奪うしかないわぁ。何としても」


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