第28話 (R)初夜⁉

 リビングに来客用の布団を敷き終え、遥の両親の部屋に三人で寝る用の布団を敷く。

 ミミは既に寝息を立てて布団の中で寝ていた。


「お風呂、先に貰いました」


 両親の部屋の入口からちょこんと遥が顔を見せる。ホクホクと頭から湯気が出ていた。

 

「じゃあ、俺も入っちゃうね」

「はい……、リビングで待っています」

「うん」


 俺は風呂場に向かい、体をごしごしと洗い、湯船に浸かる。

 だが、胸がドキドキするというか、手が震える。

 え、好きにしろってどういう命令ですか?

 添い寝までは良いですよ。

 いつも通りですわ。

 その先を好きにしろってつまりはつまり――。


「する……ってことだよな」


 いや、さっき二人でコンビニに行って来て、アレを買ってきたのだ。

 つまり、そ、そういうことだろぉ⁉

 でも、いきなり過ぎて心の準備ができていないというか……。

 あぁ、手が震えてきた。

 震えが止まらん。

 俺は湯船に頭まで浸かったが、息が苦しくなって、ザパンと湯船から出た。

 いや、男。

 八代景太。

 ここで逃げるわけにはいかない。

 逃げたら末代までの恥さらしだわ!

 俺は着替えを終え、リビングへ向かう。


 リビングは既に薄暗く、常夜灯がほんのりとついており、パジャマ姿の遥が正座をして待っていた。

 俺も無言で遥の傍へ行き、正座して向かい合う。

 まるで剣道の試合でも始めそうな空気なのだが、遥の緊張が肌にひしひしと伝わって来るのが分かる。


「「あの」」


 お互いの緊張のあまり、言葉が重なる。


「遥からどうぞ」

「景太からどうぞっ!」


 遥の目の中が螺旋を巻いているように見えた。

 お互いに初めてだ。

 しかも、遥はこういうことに疎いに違いない。

 いや、俺も初めてなのだが、心臓が脈をうち、体に大量の血液を循環させている。


 頭が妙に冴えわたってしまい、性に関して学んだあらゆる記憶が呼び起こされる。


 そうだ……。

 とにかく優しく、寄り添うようにリードするって百戦錬磨の男優さんが言っていた。


 女性の心と体はデリケートだ。

 ゆっくり会話をして、遥の気持ちを聞きながら、寄り添うんだ。


 俺は深呼吸をする。

 遥はまだ緊張していた。

 いや、緊張過ぎていた。

 そんな遥を見ていたら妙に落ち着いて来た。

 さらに【聖愛の契り】で習得した聖念波の魔法の力で意識を遥に集中させると――。


『景太と……、うまくできなかったら……どうしよう』


 遥の心の不安が言葉となって伝わって来た。

 これなら意識を集中させれば、遥が何を思って、どうしてもらいたいのかを言葉で言わなくても知ることができた。


「大丈夫。俺も初めてだから」


 そして、遥をリードするように、優しくそっと手を差し伸べ、


「ゆっくり二人で」


 優しく言葉をかけると、肩を強張らせていた遥がハッと気づいて俺の手を握る。

 そのまま、もう片方の手を取って、遥をこちらに抱き寄せた。

 

「温かい……です」


 遥が俺の肩に首を乗せ、身を委ねる。

 柔らかい肉付きの良い体を感じ、胸が高鳴る。

 甘い柑橘系のボディーシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐる。

 さらに、遥の熱い吐息が首元にかかって、甘く脳を刺激する。

 しばらく抱き合っていると遥の心の声が聞こえてきた。


『わたし……景太になら何をされても大丈夫だ』


 遥がもう一度、俺と向き合う。

 常夜灯に照らされたパジャマ姿の遥がより煽情的に映る。

 遥は色っぽく唇を小さく開き、頬を赤らめたまま、自分のパジャマのボタンに手をやり、一つ一つ外していく。

 白のブラと、絹のように繊細な肌が露わになった。


「外して……、もらえますか?」


 俺は頷き、遥の背中に手を回し、ブラのホックを外す。

 遥は恥ずかしそうに溢れんばかりの胸の前を両手で隠した。


「本当に綺麗だよ」

「……嬉しいです」

 

 遥が俯いて頷く。

 俺は俯いた遥の頬をこちらに向けさせて、何度か唇を優しく甘く噛むようにキスをすると、遥も俺に合わせるように返してくれる。


 そして、俺たちは両手を握ってそのまま布団にパタリと横になった。


「景太に……、触ってほしいです」


 そっと手で遥の胸を優しく包み込む。


「ぁ」


 遥が口に手を当てて、甘い声を上げた。

 遥の高まる呼吸に合わせるように、遥の首元を、耳を、胸を、優しく愛でる。


『……ぁ……、そこ……すごく好き』


 魔法のおかげで遥の好きな所も分かってしまった。

 そのまま遥の想いに寄り添い、遥の好きな所を探り、同時に愛でる。


『んぁ……ぁ、ふぁぁぁ……。……すごい。自分でするよりも……ずっと』


 一通り遥を愛で終えると、遥は口で息をしたまま、気持ち良さそうに眼を細め、蕩けた顔を見せた。


「景太にも……してあげたいです。私はどうしたら良いですか?」

「えっと」


 遥の耳元でそっとどうして欲しいか伝えると、こくりと遥が恥ずかしそうに頷いた。


「……分かりました」


 そして――、お互いの手が、お互いの所に伸び。



 ~【自主規制(二人は楽しく遊んでいるだけです)】~



 遥はぐったりとした様子で息荒く呼吸をしていた。


「頭の中が……、真っ白になっちゃいました……こんなの初めてです」

「上手くできたか不安だったけど」

「ううん。景太は凄く……、上手でした」

「そ、そう?」

「はい。だって、わたし、景太に……その……何度も……」


 遥は顔を真っ赤にして、下唇を噛んだまま照れ臭そうに微笑んだ。

 それだけ遥のことを幸せにできたことに、俺も嬉しくて言葉が出てこなかった。


「優しくて、凄く安心できましたし、凄く幸せでした。景太だからこうなれたと思います」


 すると、遥が俺の下部を見る。


「私ばかり、ごめんなさい。そろそろ」


 遥が枕元においてあったアレを取り出す。

 そして、冷たい感触が俺を襲った後、遥に導かれるように、体を重ねようとした時――。




「ママ、おしっこ行きたいの」


「「んヴぃいrふぁいんgんぎうなりsぁあいlwrwj⁉」」


 俺たちは急いで布団を被り、声がした方を向く。

 ミミが眠たそうに眼を擦りながら、俺たちの布団の隣に立っていた。


「いつものお家じゃないから……、どこでしていいのかわからないの」


 ぶるりとミミが体を震わせて足踏みを始める。


「……もれそうなの」

「え、う、うそ! う、うん。一緒にいこうか!」


 遥が秒でパジャマを羽織って、ミミを抱えてトイレの方へ連れていく。

 だが――。


「あっ、ミミちゃん! ここではダメっ!」

「ううっ。ママぁ……、ごめんなさい……」


 あぁ、やっちまったか。

 俺は天井を見ながら涙していたが、服を着て身を整えた後、タオルと替えのパンツとズボンを持ってトイレに向かう。

 すると、行く途中、パチリと命令が消えた。

 パートナーに添い寝して、ブラを脱がせてキスをしてチョメチョメしたからってことだろうか。

 その後、俺たちは遥の両親の部屋に戻り、その夜は、ご自慢の耳をしょんぼりさせ、落ち込んでいたミミをなだめて寝かしつけた。


         ☆


 息が苦しい……。

 目が覚めたら、視界が真っ暗だった。

何事かと思えば、ミミが俺の顔にしがみついており、ひょいと顔から剝がす。


「どうなったら、そういう寝相になるんだ」


 ミミは未だにスーピーと寝息を立てていたが、俺の隣の布団に遥はいなかった。

 もう起きているのか。俺はミミを布団に戻し、お腹が冷えないようにタオルケットを掛けてあげて、台所の方へ向かった。


「おはよう」

「おはようございます」


 台所の窓から差し込む太陽の日差しと共にエプロン姿の遥の笑顔が眼に入る。


「手伝わなくて大丈夫?」

「はい! 今日は私が朝食作っちゃいますから。景太はミミちゃんを起こして帰る準備の方をお願いします!」


 何やら遥は少し忙しなかった。

 俺はスマホを確認すると、朝の八時で月曜日。


「あぁ……、遅刻だわ。この時間からだと一回家に戻って……、学校に着くのは昼過ぎくらい?」

「ですね」

「よし、ミミを起こしてくる」


 俺はミミを起こしに行こうとしたが、クイッと遥に服の袖を掴まれた。


「あの……」

「?」

「わたし、いつでも準備はできていますから。その……、また! 必ず!」

「……うん!」


 俺たちは見つめ合うと顔が熱を持ち、お互いに俯いてしまう。


「じゃ、じゃあ。ミミを起こしてくるね!」

「は、はい!」


 俺はまた、寝室に戻りパジャマ姿のミミを起こして、一緒に洗顔をして、朝食を食べる。

 そして――、最後に遥のご両親の仏壇に線香を上げた。

 二人に娘さんのことは誰よりも大切にしますと想いを添えて。


「もうそろそろ電車の時間ですよ!」

「パパはやくぅ!」

「今行くー!」


 俺は蝋燭の火を消して、玄関先へ向かった。


―――――――

(このぉ!o`・д・)≡〇)`Д゚)←作者。


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