パンケーキが食べたい

 たまに夕食の買い出しを日葵ひまりと一緒にする。

 親父か愛子あいこさんなら車で行き帰りするのでたくさん買い込めるが徒歩の二人はそういう訳にも行かない。手で持ち帰るからだ。

 荷物持ちの役はもっぱら俺だ。そしてなぜか俺が荷物持ちの時は日葵が余計なものを買い込む。だから俺たちの買い物は量の割に値が張る。

 頼むから重いもの、高いものは買うなよ。

「パンケーキが食べたい!」

 パンケーキのもとを見つけて日葵が叫んだ。

 こどもみたいなヤツだな。学校とはえらい違いだ。

「日葵が作るのか?」

「お兄ちゃん」

「だよなー」俺は棒読みを返した。

 こいつは何かと俺に作らせるのだ。

 親父と二人暮らしを続けたこともあり、俺はどうにか食い物を用意するスキルを身につけていた。

 決して料理が上手い訳ではない。何となくそれなりのものを用意できるに過ぎない。

 一方、日葵ひまりは俺よりも料理ができるくせに生来せいらいもあってなかなか作ろうとしない。

 俺の前では日葵はになるのだ。

 こんなヤツにしたのは誰だ? 俺か?

「パンケーキくらい作れるようになった方が良いよ」

「何でだ?」

「家族が喜ぶじゃん」

「特にお前がな」

「デへ!」

 ――てな具合だ。

 仕方がないから言う通りにする俺だった。

 みんな機嫌良くが一番だ。ということで夕食のメインはパンケーキになった。

 すまん、親父。のおかずが必要だよな。

 主食がパンケーキだ。それに合ったおかずなんてなかなかないだろう。

 普通に考えて炭水化物以外を揃えなければならない。まずはサラダだな。蛋白源としてベーコンかハム、ソーセージ。あるいは鶏肉だな。ささみとか。そうそう、シーザーサラダにしよう。

 日葵が動いた。アスパラガスをかごに入れやがった。ベーコンも手にしている。アスパラベーコンかよ。

「ソテーにするのは? オリーブオイルとニンニクで」

「それだとフライパンが二つ必要になるぞ」パンケーキだからな。

「二つあるじゃん」

「俺、同時にできるほど器用じゃないし」パンケーキを焦がしたら絶対に文句を言うだろう?

「私が手伝ってあげるわよ」

 日葵はあくまでも俺の補助のつもりのようだ。

 あれ? いつの間にか俺が作ることになっていた? まあ良いけど。

 ということでその日は俺がメインシェフ、日葵がサブとなって夕食を用意することになった。


 そしてできあがったのがオーソドックスなパンケーキ。メープルシロップをかけて食べるホットケーキだ。

 ベーコン、アスパラガス、じゃがいもの炒め物。

 シーザーサラダ。


 結局のところ、俺はパンケーキ専属料理人となった。

 日葵が炒め物担当だ。もっとも――水につけたじゃがいももアスパラガスもレンジで調理したから時短だ。そして俺の横で楽しそうに炒め物を作りやがった。

 なお、炒めたベーコンはシーザーサラダにも流用している。クルトンやらチーズも和えて見栄えよく仕上げた。さすがは日葵だ。

「さすがは日葵ちゃんだ」親父が絶賛した。

 確かに、メニューの大半は日葵が用意したように見える。俺はひたすらパンケーキを焼いていたからな。俺がパンケーキのもとやら卵やら牛乳やらをボールで混ぜたりした下拵したごしらえなんて親父の目に触れないし。

 それに親父の主食はビールなのだ。俺が焼いたパンケーキはほとんどその口に入らない。

 まあ、そんなものだ。二人で作ると目立つのは日葵なのだ。

 しかし嬉しそうにパンケーキを食べる日葵と愛子さんを観ていると、親父の一言などどうでも良いと思えてくる。

「美味しいね、お兄ちゃん」

「アスパラベーコンの炒め物には負けるよ」

 俺は遠吠えしつつも、何だか小さな幸せを感じるのだった。

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