唐突に幸村

 俺の昼飯はほぼ毎日弁当だ。愛子あいこさんが朝作ることが多いが前日の夕食の残りをリユースすることもある。

 そしてこの弁当を開ける瞬間がいつも緊張するのだ。

 以前日葵ひまりがわざと自分の弁当箱を俺のランチバッグに入れやがったからな。俺は、チェックすることから始めなければならない。

 俺はランチバッグのジッパーをわずかに開けて中が俺の弁当箱であることを確認してひとまずほっとする。そして弁当箱を取り出した。

 また緊張の一瞬。

 開けてみてキャラ弁だったりしたら即注目を浴びることになる。また大きく「LOVE」などとデコしてあったりしても同様だ。

 だから俺は教室で弁当箱を開くのはいつもひとりになった時を見計らってするのだ。

 そして今日のおかずは昨日も食べたベーコンとアスパラ炒め物にキッシュみたいになったパンケーキだった。これはホットケーキのもとを使っているが塩味具材を混ぜてある。

 俺はひと安心して食べ始めた。

 通りかかった幸村ゆきむらが覗いていく。

 お前まだ教室にいたのか。いつも学食に行っているだろう。

山田やまだくん、ったおかずだね。うらやましいよ」

「そうか?」

「毎日学食も飽きるよ」金もかかるだろうしな。「誰か弁当作ってくれないかなあ」

 近くにいた女子たちが無視するかたちでそっぽを向いた。

 ふつうの女子たちにとって幸村は要注意人物だ。いつなんどきとんでもないことで話しかけられるか想像もできないからだ。

 それはもはや言いがかりに近いものだった。こいつは空気がまるで読めないからな。

 前のクラスにもいたがひとりやふたりこういうヤツがいるものだ。それでも幸村は変なヤツという意味では群を抜いていた。

「やっぱり彼女を作らないとな」

 男にはどこかラブコメの主人公になりたいという願望があるのかもしれない。そんな自分の思い通りの展開にはならないのだけれど。

「彼女できたら応援してくれるかい?」

「ダメだろ。校則で禁じられている」

 そういう理由ではないが幸村を暴走させるわけにはいかない。

「え? でも門藤もんどうくんと幡野はたのさん、付き合ってるだろ」

「ふたりは幼馴染みで付き合っているわけではない――と門藤もんどうが言ってたぞ」

「それは表向きだろ? 名手なてさんが応援してるし」

名手なてが勝手に応援してるだけで、ほんとうにただの幼馴染みらしいぞ」

「そうなんだ……」

 おや? 訂正が利くのか?

「……それなら、ボク、幡野はたのさんにいこうかな」

 いくって?「どういう意味?」

幡野はたのさんフリーなら彼氏候補に立候補するんだよ」なんて無謀なヤツ。

「――やっぱりこのクラスだと幡野はたのさんだよな。超絶美人だし」それは否定しない。

 可愛い女子はクラスにもたくさんいるがクレオパトラみたいな美女は幡野だけだろう。名手なても美人だが悪役タイプだ。

「ねえ山田やまだくん、協力してくれるよね?」

「は?」

 俺は幸村ゆきむらのつぶらな瞳に見つめられて動けなくなった。

 俺、何かまずいことを言ってしまったらしい。

 これは予期せぬ展開だ。

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