クラスの構図

 中間テストというイベントは実にあっさりと終わった。

 ついでに言うと俺も終わった。いつもより勉強したと思うがまた平均前後の出来だろう。

 それは一つずつ返される答案を見れば瞭然だった。

 担当教官が学年の平均点、クラスの平均点、学年の最高得点、クラスの最高得点をわざわざ言う。教えてくれなくても良いのにそれで自分が平均前後だと知ることになるのだ。

 俺たちのクラス――二年E組はおそらくは学年では真ん中あたりの成績だろう。クラスの平均点が学年全体の平均点とほぼ同じだった。名手なてが発破をかけたからか、もともとそのくらいの学力なのかはわからない。

 ちなみにクラスの最高得点は科目ごとだと樋笠大地ひがさ だいち幡野香耶佳はたの かやかのどちらかがとっており、総合成績はこのふたりで争うことになりそうだ。

 二枚目三枚目の両刀使いである樋笠ひがさが優秀なのだと今さらのように知らされる。さすがは元A組。

 学級委員の二人――名手なて門藤もんどうは三百人中五十位以内に入っていれば良いという考えのようだった。それでも優秀だと思う。


 中休み。前の席の門藤もんどうが振り返ったので俺はつい声をかけていた。「門藤、調子良さげじゃないか」

「五十位以内に入らないと名手なてがうるさいからな」

「あいつと争っているのか?」

「名手よりも上の成績になることが求められている」

「どっちが上かの勝負じゃないのか」

「あいつの頭の中で俺のあるべき姿というものがあって、門藤諭吉もんどう ゆきち名手アザミなて あざみよりも成績が上という設定らしい」

 ここでも設定という言葉が使われる。俺たちは学園ものアニメのキャラか。

 ――て言うか、門藤って諭吉ゆきちという名前だったのね。俺はそれが新鮮な驚きだった。何度か自己紹介の場面があったはずだが俺はそれを聞き逃していたようだ。

「なあ――」俺は声を潜めて以前から気になっていたことを訊いた。「なんでみんなあいつのシナリオ通りに動くんだ?」

 あいつとはもちろん名手のことだ。

 門藤はこれ以上できないくらい渋い顔をして言った。

「みんなたいてい何か大っぴらにしたくない秘めごとを抱えている。いやそんなに大袈裟に秘密というほどでもないがそれでやかましく騒がれたり煽られたりしたら面倒というか困惑することだ。あいつはそういうものを嗅ぎ付けるスキルが桁外れにあるんだ」

「弱みを握られて脅されているのか?」なんて悪女だ。

「いや脅している訳ではない。あいつが厄介なのは本当に悪気がないところだ。あいつは秘密を嗅ぎ付けるとそれに共感し同情し過ぎるあまりに協力しようとしてくる。非常に迷惑なお節介だ。俺と香耶佳かやかの場合は勝手に付き合っていると思いこんで、校則で禁じられている男女交際を秘かに応援すると称して介入してくるんだ。あいつの中でラブコメのシナリオが出来上がっている」ラブコメなのか。

「――俺は優秀な学級委員。香耶佳かやかは校則遵守に目を光らせる美化風紀委員という立場にありながら秘かに付き合っているという設定だ。お蔭で俺も香耶佳もやりたくもない学級委員と美化風紀委員をやらされている」やっぱりやりたくなかったのか。

「俺たちだけではない。おそらくは新聞部の伊沢いざわとか担任の古織こおりも何か握られて操られているな」

「え?」

「伊沢は更なる情報収集のための手駒にされているし、古織は名手のことを見て見ぬふりだ」

「それは……」厄介で面倒くさいな。

「だから誰もあいつに逆らえない」

樋笠ひがさもムードメーカーとして使われているんだな」

「樋笠は単に面白くてやっているだけだろ。あいつも自由人だ」

「そうなんだ」

「だから何か秘密めいたことがあっても絶対に知られるなよ。舞台劇の役者として操られるぞ」マジ?

 俺と日葵ひまりが親の結婚で義兄妹となり同居しているなんて知られたら終わるのか?

 ――って、名手なての手駒伊沢いざわにもう知られているぞ。

 大丈夫なのか?

 俺は体中に冷や汗を感じていた。

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