なぜかクラスの顔たちに囲まれる

 下校前のホームルームは時に長くなる。中間試験前だから担任も気合いが入るのかもしれない。

 いくつか注意事項を述べた後、古織こおりが学級委員の門藤もんどう名手なてを壇上に呼び寄せた。

「まもなく試験期間だ。一週間前から部活も休止。学校に残っての勉強会も禁止だ。ボクたちはなすべきことをしよう。きっとできる。ボクたちはそれだけの努力をした」門藤もんどうが力強く言った。

 明らかに名手なてに言わされているな。門藤もんどうの自称は「俺」だし。

 しかしだんだんと学級委員もさまになってきているのではないか。本当はコミュ障だと思うのだがよくやっているよ。俺なら噛むな。

 横にいる名手はつつましやかに微笑んでいた。こうして見ると公爵令嬢に見えないこともない。もちろん門藤が皇太子の役だ。

 おそらく名手はそういう設定で「演技」しているのだろうと俺は思った。

 しかしいくら門藤が頑張ってリーダーシップを発揮しようとしてもそんなに簡単にはいかない。

「よし、やろうぜ」という樋笠ひがさの合いの手もむなしく響いた。

 多分、前のクラスではそれで意気が揚がったのだろう。しかしうちは二年E組だ。有象無象の集まり。

「はあ、試験だ。終わりだ」幸村ゆきむらの嘆きが全てを物語る。

 どっと沸いたのは教室の外だった。二つ隣のG組だ。

 オオオオオー!とような歓声が上がり、大爆笑が続いた。

 とにかく。ここまで響いてくる。さすがはだ。

「いいこと――G組やH組には負けないようにね」

 シメはやはり名手だった。仕切りの女王だ。には負けられないと発破をかけたのだった。それに踊らされる俺たちでもないがな。

 G組が解散して廊下が静かになってようやく俺たちも解散となった。

 俺は成り行きで門藤や樋笠と歩くことになった。門藤の幼馴染みでもある幡野はたの伊沢いざわとともに名手なてに付き従っていた。いわゆる悪役令嬢のとりまきだ。すでに三人組として定着している。

 その三人の少し後ろを俺は門藤や樋笠とともに歩いていた。

「ごくろうさん」樋笠が門藤をねぎらう。

「樋笠もおつかれ」

「今日も幸村くんのアドリブに参ったよ」樋笠が笑う。

 やはりシナリオがあるらしい。門藤と名手が司会をつとめるホームルームはほとんどの場合事前に根回しがなされていて、決議に至るまでのストーリーが出来上がっているようだ。「そうだ、そうだ」とか「お任せします」とかヤジや合いの手の台詞を言う役まで割り当てられていた。樋笠や伊沢などが役者になっている。全ては名手の支配下にあるのだ。

 しかし中には予想外のことを口にするヤツもいて幸村がその代表だった。幸村が洩らす一言――アドリブにはアドリブで返さないといけない。樋笠はいつも頭を悩ませているようだった。

「ま、アザミ嬢がいるから何とでもなるんだけど」樋笠は笑う。「うちのクラスの魔王だしね」

「何か言ったかしら? 聞き捨てならないことが聞こえた気がしたけれど」

 前を歩いていたはずの名手が俺たちを振り返る。俺は関係ないぞ。

「ゆるじで」樋笠は女声をあげた。

 こいつは二枚目だが三枚目にもなる。いつもムードメーカーだ。

 ぐふふと笑った三つ編み眼鏡の伊沢は名手に頭をはられてギャフンとつぶれた。

 怖いな。こういう連中とは関わらない方が良いな。

 そう思うのだがなぜか俺が歩くところに奴らの誰かがいる。

 これは運命――いや宿命なのか?

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