地味な俺はお通夜席に座る

 そしてE組とF組合同の「親睦会」が開かれた。

 平日の放課後にファミレスに移動だ。全員参加なら七十六名になるが二十名に満たない人数ですんだ。

 非公式だし、陽キャの集まりだし。引率がついているし。

 俺たちの学校は学校帰りの寄り道を校則で禁じていた。制服姿のままファミレスに寄るなどもっての他だ。

 今回それが許されたのはちゃんと許可をもらったからだ。その代わり引率がつく。俺たちE組担任の古織こおり先生とF組担任の市ヶ谷いちがや先生だ。

 仕事とはいえよくついてきたな。こんな面倒な集まりに。俺もだが。

 なぜか目立たないボッチの俺はこの場にいた。幸村ゆきむら樋笠ひがさのノリに押しきられたかたちだ。

 F組にいる日葵ひまりも俺と似たような立ち位置だが日葵はルックスが良いから声がかかるのも不思議ではない。幸村が憧れるF組女子三人のうちの一人だった。勝手に三人組をつくるなよ。

 ただ、二十名近くいるとグループ席三つも占めるから俺と日葵は遠く離れた。

 その方が都合が良かった。日葵は少し不服そうにしていたが、担任二人が目を光らせていたのでおとなしくしていた。

 で、なぜか俺の目の前に古織こおり先生がいる。直帰するつもりらしくバッグも持ち歩いていて今は腰のあたりにおいている。

 このグループ席は六人。E組ばかりだった。ちなみに俺からもっとも離れたグループ席はF組のみでそこに日葵がいた。真ん中のグループ席はE組F組混合でここが最も賑やかだ。

「さすがにお通夜ね、この席は」はっきり言うのはE組女子学級委員の名手なてだ。

 なぜかここには男子学級委員の門藤もんどうと美化風紀委員の幡野はたのがいて何だかお堅いグループに思えた。

「古織先生の冷気が漂ってくるわ」

「悪かったわ」

 担任にずけずけ言う名手なても凄いが古織こおり先生のお疲れモードも俺には初見はつみだった。

「あなた盛り上げなさいよ、伊沢いざわさん」

 名手は隣にいた三つ編み眼鏡女子に言った。先日屋上ランチタイムに割り込んで古織先生と密談を交わしたヤツだ。

「私、あっちがいよお」伊沢は真ん中の賑やかなグループに混じりたいようだ。

「あちらは親睦会」こっちは違うのかい。

 真ん中のグループには樋笠ひがさ幸村ゆきむらがいてF組女子二人とすでに良い関係ができていた。まるでそいつらのためにこの親睦会が開かれたみたいに。

 俺たちは教職員の目をくらますためのダミーか? そんなことのためにここに参加させられているなんて――許せん。といっても俺にはどうにもできない。

「あらためまして自己紹介いたします」伊沢が何やら話し始めた。「新聞部の伊沢です。名手なてアザミ令嬢のを務めております」

「な、何よ、その言い方」名手が慌てて伊沢の口を塞いだ。

 古織こおり門藤もんどうがため息をついたぞ。そういう設定なのか?

 伊沢は「てへ」と笑い、わずかに首をかたむけた。よくいる三つ編み眼鏡女子だが可愛く見えたぞ。

「お騒がせしたわ。女子学級委員の名手なてです」

 知ってるぜ。クラス一の存在感だしな。新学期初日から支配者になっていたし。つり目の美人で悪役令嬢キャラだ。

「――趣味はお茶とお菓子ですわ」やっぱりラノベキャラだ。

「男子学級委員の門藤もんどうだ」名手に促されるようにして門藤が口を開いた。「――趣味は特にない」

 ふてくされているように見えるのは気のせいか。不本意ながら学級委員になり、この親睦会にも意に反して参加したみたいに見える。

「美化風紀委員の幡野はたのです」前髪ぱっつんの黒髪ロングの美少女が悠然とした所作で頭を下げた。

 物静かな文学少女タイプだ。美化風紀委員と言えば学校側の手先になって服装チェックやら何かと品行に対して指導をいれるイメージがあるが幡野みたいな女子に言われたら素直に従ってしまうだろうな。

 俺が幡野に見惚みとれていると、遠いところから刺すような視線が。それが何なのかわかる。

 何気ない振りを装って一番遠い席に目をやると日葵ひまりの能面のような顔があった。

 怖い! 怖すぎる! 俺は黙ってうつむいた。

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