たまには決める
不思議な話だが、バスケットのゲームに出ている間、俺は解放感を味わった。
面倒くさがりの俺は本来、待機で休憩しているときほど気が休まる。
しかし女子と合同の体育となると幸村の妄言暴走に巻き込まれてしまうのだ。ゲーム中の方がそれから逃れられる。
俺たちE組はF組男子と5対5のゲームをしていた。
数回体育授業を共有しただけでクラスカラーの違いがわかる。ほんとうに対照的だ。
F組男子は真面目で、冷静で、冷めたヤツが多かった。
それに比べて俺たちE組ときたら幸村がいるだけでうるさい。「は? うますぎるぞ!」とか「それが入るか?」とかいちいち声に出さないと気がすまないらしい。F組男子が上手かっただけなのだが。
俺たちはというと、学級委員の
「足が止まっているわ!」
「根性見せなさいよ!」
女子の叱咤までもが飛んでくる。もはや声援ではない。女子学級委員の
しかし何を勘違いしたのか幸村はそれを声援だと受け取った。マゾ気があるのか?
上手くもないのに暴走する。強引にドリブルをして、突き進もうとして相手二人に取り囲まれた。
何だか相手チームは人数が多く感じられるな。こちらに体が重いヤツが多かったからか?
仕方なく俺は幸村のフォローにまわった。パスをもらいに行く。
「まかせた!」幸村からのパスが俺に通った。
「――山田、イケー!」樋笠の声が響いた。
ある程度ゴール近くに進んだらまた幸村に戻してやるつもりだった。
その時、俺の目に
壁を背に立っていた日葵はわずかだが前のめりになっていて、その口が「ガンバ」と動いた。
その刹那、俺は幸村のことなど忘れ、別のヤツにパスするふりだけしてゴール下まで進んで下手くそなシュートを放った。
それが奇跡的に入ってしまった。
「よっしゃあああ!」樋笠が興奮する。陽キャは誰でも応援できるのだな。
俺は何気ないふりをして日葵を見た。
日葵が小さく両拳を握りグッジョブをした。
俺は高揚した。
ただ、俺のシュートが入ったのはその一度きりだ。俺と幸村のいるチームは惨敗した。
うちに帰って俺の部屋。
日葵がまとわりつく。
「――おにいちゃん、かっこよかったよ。赤飯炊かなきゃ」
「大げさな……」
日葵の方が目立たず地味に動いて俺が見ただけでも三本シュートを決めていた。
でもまあ悪い気はしなかった。
「体育はずっと雨だと良いね」男女合同の授業になるしな――
――って、お前はその体を男の視線にさらすのか!?
俺はその言葉を飲み込んだ。
勘違いして図に乗るからな、日葵は。
俺は知らぬふりをしてマンガを読みふけった。
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