買い物するふたり
私服に着替えて俺は
同居してからときどき二人で買い物をしている。
さすがに外では
俺が何気なく「武蔵野うどん、食べたいな」と呟いたら、いきなり体を寄せて「食べに行こうか」と耳元に囁く。
「家で作るんだよ」
「なんだ……」
残念そうに身をくねらす。カワイコぶるんじゃない。
それよりも近すぎるぞ。そんな風に動くと、ところどころ
俺は誰かに見られていないかヒヤヒヤして周囲を見渡した。
「誰も見ていないよ」
それを承知でやっているのだ。その無気味な笑みが故意を物語っていた。なんだかな。
「それでどうするの?」
「豚バラとネギ、キノコも欲しいな。えのきとか舞茸」
「美味しそう」
今、ずるるとすすらなかったか? 学校ではおしとやかに振る舞っているのに。
学校で見かける
あまり喋ったりしないのだろう。それでもボッチにはならない。いつも誰かといる。
案外、濃い内容の一言二言をボソッと言うのかもしれない。そういうのを好む女子には受けるのではないか。
俺も似たようなものだ。おとなしく自分の世界にこもっていてもなぜか陽キャが絡んでくる。
「ナスをぶつ切りにして入れるところもあるんだよな」
「じゃあそうしようよ」日葵はすでに目を輝かせていた。
こいつは俺が作るものなら何でも良いようだ。
本当は日葵が作った方が栄養のバランスがとれて良いのだが。焼き魚、煮物、和え物、汁物と品数多く作るしな。
ただ面倒くさがりなところがあるから毎日は続かない。三日に一度くらいだ。俺はもっと頻度は少ないが。
「野菜が足りないかもだから、おひたしと
「そうしてくれ」
「おにいちゃんが作るのよ」
「なんだよー」
つけようかの意味が違う。つけろよ、じゃねえか。
日葵は笑っている。可愛いから許すしかない。
「自分が食べたいものだから今日は俺が当番するわ」
「ラッキー!」
材料だけ買って帰って
ふと日葵の姿が消えた。
明日の朝食と弁当のおかずを見に行ったのかと思った。
俺と日葵の弁当が同じなのは学校では気づかれない。クラスが違うからだ。
そもそも俺と日葵に接点があることも知られていないだろう。まさか親同士が再婚して同居しているなんてな。
食パンくらい買っておくか。そう思った瞬間、提げていた籠が重くなった。
見るとお菓子とイチゴにキウイがのっていた。
「なんだよー」お菓子は余計だろ。
俺が見る先にいたずらっ子みたいな顔をして笑う日葵がいた。
「誰が持って帰るんだよ」
「――おにいちゃん」
余計な買い物をして荷物が重くならないようにカートではなく手で籠を提げていたのに。
「せめてお菓子は
「うん、責任もって食べます」ちげえよ。日葵が持つんだよ。
俺はまた不貞腐れたのだった。
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