担任の面談

 職員室の隣に面談用の部屋がある。俺は古織こおりに連れられてそこに入った。

 驚いたことにそこに日葵ひまりと日葵のクラスの担任である市ヶ谷いちがや先生がいた。

 何となくそれで呼ばれた理由がわかった気がした。

山田やまだくんと山田やまださん――」

 その場を仕切ったのは市ヶ谷先生だ。

 確か古織よりも少し歳は上だろう。この学園に多い清楚系美人の女性教師で、ラメの入ったピンクのワンピースに薄紫の上着を羽織っていた。

 胸がやたら目立つ。古織よりもボリュームはある。間違いなく。

「――二人はご両親の再婚で同居しているのよね?」羨ましいと言わんばかりの顔をしたように見えた。

「はい」俺は答えた。

 日葵が住所変更したりしてそういうことは把握されても仕方がないだろう。もともと同じ名字だったから生徒に知られることはないが。

「義理の兄妹になるのよね?」

「はい」答える役は俺だ。日葵は黙っている。

「先日山田くんのお父様がいらっしゃったわ」何か言ったのか?

「当面、兄妹の関係になったことは公表しないとのことよ」

 わざわざ説明してまわるのも面倒くさいしな。俺たちの口から言うことでもないだろう。自然と知られる分には構わないが。

「血の繋がらない男女が同じ屋根の下に住んでいるなんて知ったら興奮●●する生徒もいるでしょうし……」

動揺●●する、でしょう?」古織が訂正する。興奮しているのは市ヶ谷のようだ。

「ごめんなさい」自分で頭を叩く。あざといのか天然なのかわからない。

「あらぬ噂をたてられても困るでしょう?」

「はい」俺は答えた。

 日葵の方を見ると不機嫌そうにしている。こいつは学校でもベタベタしたいらしい。

 二人の教師には日葵の態度がわからなかっただろう。多分俺にしかわからない。

「知っていると思うけれど、わが校は生徒同士の恋愛を校則で禁止しています。そんな状況で二人が一緒に住んでいるとなると好奇な目で見られることになるでしょう」すでにあんたがそう見ているよな。

「噂はあっという間に広がるわ。それも余計な尾ひれがついて」

 それだったら本当のことを明かした方が良いのではないか。ただその方法が問題だ。身近にいる者に話したとして、聞いてない奴らが次々と訊きに来る。それにいちいち対応するのか。

 それならいっそのことクラスのホームルームで「記者会見」をする?

 全く、大げさだな。自意識過剰の変なヤツと思われそうだ。

 しばらくは黙っていて静観するのが無難だ。俺はそう結論づけた。

「クラスも違うことだし、今まで通りにしていなさい」市ヶ谷が言い、古織も黙って頷いた。

 そしてようやく俺たちは解放された。

 廊下に出た俺は日葵に言った。「帰りも別々が良いだろうな」

 日葵の頬がぷくうと膨らんだ。

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