ウソではなかった
ウソではなかった。夢でもなかった。
親父が再婚した。
その結果、俺と日葵は義兄妹となった。
そのことを知ったのは、俺が最後だった。
俺はそれをネタだと思った。
いつも俺を驚かせて喜ぶ親父の悪ふざけのせいで、再婚のことは俺だけが最後まで知らされなかったのだ。
――ていうか、日葵、知っていたのなら教えてくれよ。
俺が了承した四月一日の午後、親父――
大丈夫なのか? そんな日で。まあいいか。
再婚したとはいえ、同居までには少し間があった。当然だ。
日葵と愛子さんは日葵の祖父母(愛子さんのご両親)宅から毎日俺と親父のところへ通ってくる。
俺と親父は日葵と愛子さんの部屋を用意する必要があった。そして新たに必要なものの買い出しもしなくてはいけない。
俺たち四人は仲睦まじく?買い物に出かけた。
俺は顔見知りに見つからないか冷や冷やしたが、幸いなことに知り合いに出くわすことはなかった。
日葵は俺のすぐ傍にいて今にも俺にくっつきそうな勢いだったが、外ではそれなりの距離を保っていた。
それが節度ある女子の振る舞いというものだろう。
そして二日かけて日葵たちは俺の家に越してきた。
日葵と愛子さんはかなり荷物を整理して俺たちのところにやって来た。
俺と父親は一戸建てでふたり暮らしをしていたのだが、日葵たちのために空き部屋をつくる必要があった。処分したものも多い。移動させた荷物もある。
俺の部屋も狭くなった。何だかな。
今まで男所帯だったものだから家の雰囲気は一気に変わった。家の匂いがまた女性のものに変わったのだ。
俺は落ち着かなかった。トイレに行くのにも気を遣う。自分の家ではないみたいだ。
俺は自分の部屋にこもることが多くなったのだが――――
「――なんでいつもいるんだ?」
俺は俺のベッドに座って俺の漫画を読んでいる日葵に訊いた。
「――漫画読みたいから」
「貸してやるから自分の部屋で読めよ」
「可愛い妹がおにいちゃんとほのぼのタイムを満喫したい気持ちがわからないの? 悲しい」
明らかに面白がってやがる。こんなヤツだったか?
俺と日葵は幼馴染みだ。家も近かったし小学校への登校グループは同じで、低学年の頃は手を繋いで通ったこともある。
その後も中学、高校も同じ。
高校へは電車通学していて朝は一緒だ。
さすがに登校してからは別行動をとっていて俺と日葵の仲を知る者はほとんどいない。
学校にいる時の俺たちは全くといっていいほど接点がなかった。
休みの日もこんな風に同じ部屋にいたこともない。
それが親同士の結婚で義理の兄妹になった瞬間、こんな距離感になったのだ。
いったいどういうつもりだ?
しかも部屋着だ。ロング丈のワンピース。そのままパジャマとしても使えるものを着て俺の部屋にいる。
俺たちは夫婦か?
くつろいだ日葵は漫画に集中している。時おり興奮してのけ反る。
立て膝していた両足が舞い、膝の裏側が見えるではないか。
俺はヒヤヒヤした。
「見えるぞ」俺は顔を背けて言った。
「――エッチねえ」日葵は笑うだけだ。
明らかに俺の反応を面白がっている。こんなことはなかった。
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