第2話 殺人現場
菜々は、走り寄って来た桜田を見て少し興奮しているようであった。
「いや、私達も先程着いたばかりであります。で、何事かあったのでしょうか」
身長の高い遠藤よりは小柄だが肩幅のあるしっかりした体つきであった。鼻筋も通った好青年で、菜々が興奮する理由もわかる気がする遠藤であった。
桜田は息を整えてから、長谷川と2週間連絡が取れないこと、関係者で行方を探したが結局この家にいるのではないかという結論になったことを話した。
「管理会社に家のロックは解除してもらったのですが、事件性があるかもしれないので、家に入る時は警察の方と一緒にと言われまして」
「まったく本庁は有名人からの依頼には弱いからなあ。こんな時間ってのに」とぶつぶつ言う遠藤の背中を菜々が押しつつ、家の作りを知っている桜田を先頭に、三人は邸宅の中に入っていった。
家の中は、驚くほど寒かった。
お盆が過ぎても、まだ暑い、ねっとりした夕方の空気から、冷風に包まれる寒さを菜々は感じるのであった。
遠藤も「さぶ、さぶ」と何度も言いなかが桜田のあとを着いて行った。
薄暗い灯りがいたるところについていた。
一階のリビング、二階の寝室には誰もいなかった。長谷川の研究室だという三階に上がっていく。部屋の中から光が漏れていた。何か話し声も聞こえる。
三人がその部屋に入ると、女性のホログラムが立って話しをしていた。さっき菜々が見せた玩具と同じホログラムなのだろうが、遠藤には本物の人間がいるようにしか見えなかった。
「こんな等身大のホログラムがあるなんて」
つぶやいた奈々に答えるように桜田が言った。
「そうです。この規模のホログラムを作るには莫大な費用が必要です。実は長谷川の資産がかなり無くなっていることがわかり、その上失踪したので僕らも心配して探していたんです」
奈々が小さく「あっ」と叫んだ。
「部長。向こうの椅子に誰かが座っています」
暗い壁際に人が崩れ落ちるように座っていた。
桜田はホログラムの中を走り抜け、椅子の中に座り込んでいる人物のVRゴーグルを剥ぎ取ると「あああ、長谷川、長谷川」と何度も叫んだ。
遠藤は菜々に本庁へ連絡するように指示を出した。
それから桜田の横に行くと「済みませんが、桜田さん、ここは事件現場となりました。この方、ここにある物に手を触れないで頂けますか」と桜田の手を長谷川の肩からどかした。
「長谷川、どうしてこんなことを。なぜ俺に相談してくれなかったんだ」
遠藤は、本庁刑事課に戻ったように桜田に話しかけていった。
「なにか心当たりがあるのですか」
死体を見ても、なんの動揺も見せず話す遠藤に経験違いを痛いほど奈々は感じた。
「私が開発したホログラムと彼の会話システムで新しいビジネスを考えていました。長谷川はこの部屋で等身大のホログラムと会話を融合したシステムを開発していたんです」
「じゃあ、失敗を嘆いての自殺とか?」
「いや、成功したようです。ここにいる女性は三年前に交通事故で亡くなった長谷川の彼女の文乃さんです」
「この人が長谷川さんの亡くなった恋人ですか。それにしてもこのホログラムっていうのは本物みたいですねえ」
「はい、文乃さんを作り出すことに成功したようです」
「では、成功したということですか」
桜田は、長谷川をじっと見つめてから静かに言った。
「はい。きっと長谷川は成功した、長谷川の願いは叶ったのだと思います」
パトカーのサイレン音が聞こえたと思ったら、どたばたと警察官があがってきた。部屋の入ってきた警察官は遠藤に気づくと「部長」と直立不動になって敬礼する。本庁時代に遠藤の部下だった金子だった。
「リケジョ。俺たちの仕事はここまでだ。あとは本庁に任せて、帰るぞ」
「え、けどまだ、桜田さんとの話しもありますし」
そう言いかけた奈々を押し出すように遠藤は菜々と部屋を出ていった。
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