6. 生体同期(バイオシンク)
今にも飛びかかってきそうな敵の巨大クーガー……だったが……
その姿はまるで凍ったように動かなかった。
それだけではない。まわりの光景……下界で燃え上がる炎が生む空気の揺らぎも、ピタッと止まって見えた。
なぜかはすぐに分かった。
ユラがまた、
不確定フィールドの外では、僕の極限定的フィールドは絶対的な超加速状態になる。
敵もアンロックしない限り、こっちのなすがままだ。
だが、ユラは何の断りも入れなかった。僕だけでなんとかしろと放り出したのか?
その時、
「
僕は驚いた。
アンロック状態で、ユラの声が聞こえる! まさか……
「まさか……
「ああ。そうしないと、作業の時間が取れないだろ」
これを選択することで
だが、それは
「やめろ! 寿命が縮むだろ!」
超加速状態の中では当然、時間はあっという間に進み通常空間に戻った時には、数千倍の時間が経過していることになる。
どれくらいの間アンロックしているかにもよるが、その状態に
「時間を無駄に出来ない。選択の余地はないんだよ」
ユラはコクピット内のアクセスパネルを開放し、
「
「ユラ……」
僕はユラの覚悟に言葉を失った。
ユラの作業の間、時間が超加速状態でジリジリと進んでいった。客観的には飛ぶように流れている時間の中で、主観的にはもっと早く進んでほしいという、矛盾した時間が……
目の前の巨大クーガーが、ゆっくりとだが動いているのがわかる。
四肢に力を溜め、こちらへ飛びかかろうとしている。
「終わったぞ!」
僕は
一刻も早く敵を無力化して、
「行け!」
コマンダーの掛け声と同時に、僕は南棟に向かってジャンプした。
巨大クーガーの黒いボディに爪をかけ、首元へとにじり寄る。
僕は
普通の時間の中なら、金属と酸のぶつかり合いで凄まじい爆煙が上がるところだが、その反応は大幅に遅れたまま結果として切り裂かれた傷口だけが大きく現れる。
早く……早く……
その時、想定していた最悪の事態が起こった。
巨大クーガーが突然、普通のスピードで抵抗を始めたのだ。
普通のスピードとは、客観的には超加速状態のはず……つまり……
「気をつけろ! 奴も
そんなことが出来るのか!
ユラが言った通り、このクーガーが
考えるまでもなく、今、現実にそういう状況下で、僕は暴れる巨大クーガーに必死でしがみついている。
このどんどん悪くなっていく状況とは裏腹に、アンロック効果で僕の中の戦いへの渇望がまた燃え上がってきた。
こいつを食い殺す。絶対に。
僕は切り開いた敵クーガーの傷口へさらに食らいつき、その奥へとしゃにむに突き進もうとした。
すると、機械類の間にこの怪物を操っている
コクピットだ。
僕はそこへ
たちまち敵コマンダーは人の形を失い、ドロドロに溶けてゆく。
もし、普通の時間の中だったら魂ぎる悲鳴が聞こえてきそうだ。
それでも巨大クーガーは止まらなかった。
もはや、
この
そんな雑念を、僕自身の
「脊髄を破壊しろ! こいつの動きを止めるんだ!」
合理的な指示だった。
全身に量子インストールされた
動きを封じてしまえば、あとは
だが、すぐにそんな悠長なことは言っていられなくなった。
巨大クーガーは自分の安全を確保することも忘れて暴れ続け、ついには僕を乗せたまま……
……ヘリポートから転落した。
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