3

 声をかけられたのは、私の方だった。


 目の前の私は、双眸に大粒の涙を浮かべて、掠れた声で言う。時々挟まれるしゃっくりが、さらに彼女の感情を際立たせる。

 けど、謎だ。


 泣きたいのは私の方なのに、なんで私じゃない方なの?


 わからなかった。

 こっちの方が泣いてやろうかと思った。

 けど、それは得策じゃない。だから、また先のように笑顔を咲かせる。にこっ、と。とりあえず場が収まるような。

 今度こそ、目が合った状態だった。

 そのことに、束の間の安堵。

 そして、衝撃。


 目の前の私が、不意に私を抱き寄せる。

 小刻みに震える、厚く脆い抱擁に包まれた。

 思わず、えっ、と声が出る。

 ーーどうしたの、私?

 その問いは、すぐに返ってきた。


 もう逃げないで。

 もう隠さないで。

 もう忘れないで。


 もう、泣いていいんだよ。


 相も変わらず、彼女は泣いたままだった。言い終えた後も、絶えず涙を含んだ声が届いている。

 あまりにも歪な状況だ。

 急に泣かれて、急に抱きつかれて。

 あまりにもいい迷惑だ。

 答えにならない答えを寄越してきて。

 どうしても、理解ができないよ。

 私が、今この瞬間のありようを理解できてしまったことが。


 ねえ、貴方の言葉のせいだよ。

 私の笑顔が消えてしまったのは。

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渡り糸 秋雨 @tuyukusa17

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