猫乃わん太の事件簿 ~暴走バッファローを追え?~

水城みつは

深夜の緊急生配信

 ボク、猫乃ねこのわん太には三分以内にやらなければならないことがあったような気がしつつ、全力で草原を駆けていた。

『。』がなくて良いならなんとでも言い逃れはできると現実逃避的に考えていたからか、どうしてこんなことになっているのかが思い出せないことに気がついた。


 仕方がないからできること、かつ、やらなければならないことを思い出して配信を開始した。


「こんばんわ~ん。ぬいぐるみ系VTuber猫乃わん太わ~ん。そういえば夜中だった気もするんだけど、緊急生配信を始めるわん!」


 そう、ボクは猫乃わん太。挨拶のとおりぬいぐるみ系VTuberである。ブラック&タンのキュートな麻呂眉がチャームポイントだ。ちなみにピンと立った耳や短い尻尾もおすすめだ。


❤〚え、何? 緊急生配信?〛

∈〚もう寝るとこだったにゃ。ってわん太何してるのにゃ〛

▽[マラソン……にしては物騒だな。後ろの牛っぽいの火を吐いてるぞ!?]


 そうなのだ、ボクの後ろを追いかけてくる牛っぽい何かは時折唸り声をあげながら口から火を吐いている。

「ああ、やっぱり火を吐いてるよね、その牛っぽいやつって攻撃的な角も生えてるし、パイソン?」


◇〚パイソンは蛇ですね。それを言うならバイソンだけど……〛

∴[角とか毛を見るとバイソンじゃなくてバッファローなんだろうけど……]

◆[まあ、火を吹くバッファローなんて普通は居ないよね。わん太さー、今どこのダンジョンに居るの?]


 ダンジョン、いや、ダンジョンに入った記憶は無い。夜中にふと起き出して……

「あー、いやいや、ダンジョンには入ってないと思うわん。というか、記憶が曖昧だけど家にいたわん」


◎〚どう見ても外だよね。それよりダンジョンって?〛

∀[ダンジョン はダンジョンだが、あ、もしかしてダンジョン入ったことがない?]

◆[ダンジョンの中は時間がずれてたり、フィールド型だとこんな感じで草原が広がってるようなところもある]


「そういえばキッチンに入ろうとしてドアを開けたら、この大草原だったわん」


◯[それは草w いやまさしく大草原www]

◎〚ダンジョン……、え、みんな知ってる……?〛

▽[で、どうしてわん太はバッファローに追われてるんだ? しかも、かなり凶暴そうだが……]


 忘れがちだが、ボクは絶賛逃亡中なのだ、この全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れから。


「こいつらホントにしつこいんだわん。それに、岩とかにぶつけて自滅を誘おうとしてもね……」

 ちょうど大きな岩が転がっているのを見つけたので、誘導するように向かい、飛び越える。


―― ドガガガッッ!


∈〚うぇっ?! 岩を破壊したにゃ〛

◯[あのバッファロー何だかペカペカ光ってないか?]

▽[確かに……って、おい、わん太! その手に持ってるのは何だ?!]


 そうそう、このバッファロー君たち、ピカピカ光りながらいともたやすく岩とか木とか全部破壊するんだよね。

「あ、これ? 草むらに生えてたキノコだけど、星形でかわいいよね。バッファロー君たちも結構気に入ってくれてガツガツ食べてくれたわん」


 草原に出てきて何かないかと探していたら見つけたキノコだ。結構いっぱい採取したけど、川辺にいたバッファロー君たちにあげたら気に入ってほとんど食べらてしまった。その後は興奮して火は吹くわ追いかけてくるわでって、今も絶賛追いかけられているんだった。


◆[そ、れ、だ!! それは飛星茸とか無敵茸と呼ばれるダンジョン産のキノコで……]

∀[食べると興奮状態になり一定時間無敵になるが中毒性がかなり高い、どちらかと言うと毒キノコだな]

◯[あちゃー、あれかぁ。興奮が収まるまで逃げるしかないな]


 どうやら、このキノコが元凶だったみたいだ。珍しいし美味しそうな匂いもしてたから食べようと思ったんだけど……


「キノコ食べようと思ったんだけどなぁ。おっと、流石にあそこなら壊せないかな?」


 逃げる先に頑丈そうな岩壁が見えている。


―― 『ブゥォー!』


 岩壁が迫るがバッファローも速度を落とす気配はない。


◎〚おいおいおい、大丈夫か?〛

❤〚うわっ、ぶつかるぅ!〛

◯[危ない!!]


「よいしょっと!」


―― ドガッ!ドガガガッン!


 派手な音を立ててバッファロー君たちは次々に岩壁にぶつかった。


 壁の直前で上に飛んだボクはゆっくりと空中から下りてくる。愛用している『浮遊』スキルの効果だ。このスキルは上下移動しかできないが使い所を考えればとても便利なのである。


▽[浮いてる……って、わん太、『浮遊』スキル持ってたな]

∀[流石にバッファローも岩壁は破壊しきれなかっ……たって、おい、あれは何だ?!]

∈〚扉にゃ!! 岩壁に扉が現れたにゃ! ダンジョンかにゃ?〛


 バッファロー君たちがぶつかって若干削れた岩壁には豪勢な、こんな場所には不釣り合いな扉があらわになっていた。


「実に胡散臭い扉わん。とはいえ、帰り道も分からないし進む以外の選択肢はないよねってことで、オープンわん!」


―― ギギーッ


 特に力を込めるでもなく扉は簡単に開いた。


∀[えっ??]

∈〚これはダンジョンかにゃ?〛

◇〚いやいや、これはどう見ても……〛


「ふぇっ?! ここにつながるわん?」


 開いた扉の先はボクの良く知る光景……、そう、ボクの家のキッチンが広がっていた。


「とりあえず、無事に戻ってこれたってことで良さそうわん?」

 ふと気づくと入ってきた扉は消えており、普通の家の中に戻っていた。


❤〚おかえりなさい、で良いのかな?〛

▽[まあ、無事に帰れて何よりだ]

∈〚ところで、こんな夜中にキッチンに何の用事だったにゃ?〛


「あっ! 思い出したわん」

 慌てて棚からフォークを取り出し、リビングへと戻る。


△〚それは……カップ麺?〛

◯[完全にお湯を吸ってスープがなくなっているね]

∀[激辛牛肉担々麺だと……?!]


「あぁぁ、三分どころか三十分以上経ってるわん……」


―― 本日の配信は終了しました……

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