全員に対して動機があるってなかなかな話だと思うんです

 それぞれの距離感から五角形みたいな位置に座ってる全員の名前は把握出来た。

 部屋の真ん中に座っている白いレインコートの男性の名前はわからない。

 名札も無ければ、反応もない。

 欠損部分があるだとか、血がついてるとかでもないのに、生きている気配がない。


「それで、落ち着いて名前知り合って、合コンでも始めんのか?」


「手錠つけながらそんなことやりたいだなんて、アンタ変な趣味してんのな?」


 猛犬宇野のトゲトゲしさを江田島が馬鹿にする。

 見た感じ江田島の方が年下のようだが、この数分で宇野に対して敬意は皆無になったようだ。

 大道寺さんのこともジイサンと呼んでいた辺り、慇懃無礼キャラなのかもしれない。


「デスゲームだよ、デスゲーム。男4の女1でやる合コンもそりゃデスゲームっぽいけど、真ん中の白いの見るにそういう話じゃねぇんだろうよ」


「私は観た事あるんだが、確か映画じゃああいう真ん中にいる奴が黒幕だったりするんじゃなかったかな? 最後に起き上がってゲームオーバーって言う役だろ」


「あ、私も見た事ありますよ、それ。じゃあ、主催者ってことなんじゃないですか、その白いレインコートの人」


 江田島が繰り返すデスゲームという言葉に大道寺さんが連想を始め、一之瀬さんがそれに乗っかり恐る恐るレインコートの男を指差す。

 俺もその映画を観たことがあったので、出オチじゃねぇかと思いながらレインコートの男に左手を伸ばすものの右手に繋がれた鎖が邪魔して届かない。

 どうも全員の位置からレインコートの男には届かないようになってるらしい。


「主催者ぶん殴っておしまいってワケにはいかないか」


 江田島がそれほど残念そうに思えない感じでそう言い、宇野はクソッだとかふざけんなっだとか苛立ちをわかりやすく吐き出す。


「そういや阿久津さん、だっけ? アンタ、目を覚ましてすぐ変な声出してたけど何か見たの? その白いのの正面ってアンタだからさ、そっちは何かグロいこととかなってたりする?」


 情けない声が聞かれていた恥ずかしさは咳払いで誤魔化し、言われてみれば白いレインコートの男がぶら下げてるプラカードが俺からしか見えないことを理解する。


 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。

 これがこのデスゲームか脱出ゲームかわからん拉致誘拐のルールなのだろう。

 三分以内にやらなけれはならないこと、という書き方からしてこのルールを共有することがNGとは考えにくい。

 俺だけが見れているルールを秘密にするにしても、三分以内に秘密にする、という言い方だとズレている気がする。

 その場合、三分間やらなければならない、と書くべきだろうし、こういうゲームのルール表示としては気を遣うところだろうと思う。


「皆からは見えないと思うんだけど、その白いレインコートの男さ、首からプラカードみたいなのぶら下げてんだよ。そこに《○○には三分以内にやらなければならないことがあった》って書いてあ──」


 俺がその説明をしきる直前、部屋の何処かでカチッという音が聞こえた。

 俺はその音の出処が何処かと部屋を見回していたが、他四名の視線の先は俺の頭上だった。


「皆、何を見てるんだ?」


 他の視線に合わせて上を見上げるが、部屋の暗さでそこに何があるかわからない。


「どうやら全員がルールを把握することがゲームスタートの合図だったらしいぜ、阿久津くんよぉ。迂闊だったな、テメェ、時計が動き始めやがったぞ!!」


 カチ、カチ、カチ、カチ。

 そうと聞けば何の音かと馴染みのある、秒針の音。

 三分以内。

 その三分はどのタイミングからなのか?

 今でしょ!、ってこと?

 最悪だ。


「とにかく三分以内にやらなきゃならないことってのをやれば済む話だ。ルールを知らなければ監禁状態で放置が続いていたのだとしたら、知ることで一歩前進とも言える」


「死への一歩とも言えるがな、ジジイ」


 俺へのフォローを入れてくれる大道寺さんと何でも噛み付こうとする猛犬宇野。

 状況が状況なので悲観的なのはわかるが、若干面倒臭い。

 物語にはトラブルメーカーというのがスパイス的に必要だが、現実問題そういう奴がいたら失敗の元でしかないという事が何故わからないのだろうか。


「死にたくないなら、宇野さんも考えてくれよ」


「言われなくても考えてんだよ! 三分以内にこの部屋出ろってことだろ、こんなもん。とにかく手錠外せる何か無いか探せ、テメェら」


 宇野に言われるまでもなく、皆は周辺や自分の服に手錠の鍵が隠されてないか探し始めていた。

 

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