え、この場合『○○』を埋めるのが正解なんですか? 違いますよね? どうなんですかね?

清泪(せいな)

大体目覚めのシーンから物語は始まってますので、貴方の寝起きに幸あれ

 ○○には三分以内にやらなければならないことがあった。


 目覚めてすぐに俺の視界に入ってきたのは、そんなプラカードを首からぶら下げて座り込む白いレインコートを着た男の姿だった。

 そんなわけで、俺の目覚めてからの第一声は「へぁ?」だったのだが、その情けない声が部屋の中で反響して耳に返ってきて、この目覚めが夢の中の話なのか現実なのかというあやふやさが増していく。

 頭は妙にぼんやりとしている。

 二日酔いの朝でもこうはならないし、明晰夢めいせきむでもこうはならない。

 病的な感覚に近いので、もしかしたら薬物か何かを注入でもされたんじゃないかと疑っている。

 ぼんやりしてる頭でもわかる、視界に映る妙な男と見知らぬ部屋、アレだ、デスゲームだ、これ。


「あ、あの、これは一体何が起きてるんですか?」


 突然かけられた声の主に向かって視線を動かす。

 左斜め前、俺の正面に座る男から少し距離を置いて女性がいた。

 セミロングの女性は俺に繰り返し何が起きてるのかと聞いてくるのだが、それは俺にだってわかるわけがない。

 女性の右手首に手錠が付けられていて、そこから垂れ下がった鎖が壁に金属の留め具できっちり固定されている理由もわからないし、俺もまったく同じ状況であることもわからない。

 腕が妙に重たいと思ったら、何だこれ?


「さぁ、俺にも、サッパリ、何が、何やら!」


 女性に答えながら、鎖を強く引っ張れば留め具が壊れないかとチャレンジしてみたがまったく効果は無いようだった。


「どうなってんだ、こいつは!!」


 俺からすると右斜め前、女性からするとレインコートの男を挟んだ正面から声がして振り向いた。

 見るやくたびれた背広姿の男が鎖を引っ張って暴れている。

 男の右手も俺と女性同様に手錠がはめられていた。

 デスゲーム参加者三人目というところか。


 こちらのことはお構い無しにとにかく手錠をどうにかしようと暴れる男の胸ポケット辺りに、チラつくものが見えて何なのか確認するため凝視する。


「あ? 何だよ、見てんじゃねぇよ!!」


「アンタ、いい加減落ち着けよ。ジャラジャラジャラジャラうるせえよ」


 暴れる男の抗議に言葉を返そうとするも、その前に別の誰かの声が挟まった。

 正面より若干右にずれた壁の位置に、赤いパーカーの青年が座っていた。

 落ち着いた感じで座っているが、青年も同じく右手を手錠で繋がれている。

 どうやらデスゲーム参加者四人目のようだ。


「落ち着いてられるかよ!! 何だこの状況!?」


「ああぁ、嫌なことを言うけど、これってアレだよね、映画とかであるデスゲームってヤツ。最悪だ」


 背広姿の男に答えるのはまた別の男性、声からして年配者のようだ。

 今度は正面やや左に座っている。

 部屋には高い位置にある窓から射し込む月明かり程度の明るさしか無いので、女性の方を向いた時にはその奥に人がいることに気がつかなかった。


「デスゲームだぁっ!? ふざけんなよっ!! 何でオレが、そんなもんに!?」


 暴れる背広姿の男、どうも奥の二人が落ち着いてる分余計に苛立っているようだ。


「ゲームなんだよ、ゲーム。わかるだろ、アンタ。こういうのは何だかんだ落ち着いて攻略すれば助かるんだよ。アンタみたいに冷静さを失ってる奴、速攻死ぬパターンだぞ」


 暗い部屋の中でも鮮明な赤いパーカーの青年は背広姿の男を諭すが、言い方に問題があって背広姿の男を激高させるだけだった。

 ジャラジャラと音を立てて鎖を引っ張ることをまた始め出した。

 俺はそんな男の胸ポケットの何かをじっと見つめていた。

 男もその視線に気づき​───


「だから、何だってんだ、テメェよォ!!」


 鎖が無かったら殴りかかってきてたぐらいの勢いで男は怒鳴る。

 猛犬注意という立て札が頭に過ぎる。

 だがおかげでようやくこちらに向かって正面を向いてくれた。


「アンタ、宇野うのさんか?」


「は? なんでお前、オレの名前を? まさかオレを知って───」


 運命的な再会、というわけではなく宇野に見えるように俺も胸の辺りに付いてある小さなプレートを指差す。

 黒のTシャツに安全ピンで留られているネームプレート。

 俺こんな服装なのか、と今さらながら肌寒さを感じる。


「な、ふだ? 阿久津あくつってのか、テメェは」


「さっきから宇野さんが暴れる度にチラついてたから何かと見てたんだよ。名札が付けられてるなんて、それで気づいた」


 宇野にそうやって答えて、俺は改めて女性の方を見る。

 女性も気づいたのか、キャミワンピースの胸元についた名札を俺に見えるようにとずらしてくれる。

 

一之瀬いちのせです。こんな自己紹介、何か変な感じですけど」


 教えてもらった礼に、どうもと頭を下げる。

 奥の二人の名札も見たかったが部屋の暗さに表情も見にくいほどだ、距離もあって書いてる文字は読めない。


「右側にいるジイサンの名札には大道寺だいどうじって書いてあるよ」


 赤いパーカーの青年が流れを読んで正面左の男性の名前を教えてくれる。


「ああぁ、細かいことを言うけど、これで大道寺おおみちでらと読むんだよ。ややこしくてすまないね、江田島えだじま君」


 他己紹介の礼、というかやり返しと言わんばかりにブラウンジャケットの男性──大道寺は赤いパーカーの青年──江田島の名前をわざとらしく呼んだ。

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