高校生活編

第2話

 あれからなんやかんやあり……と言っても前世とさほど変わらない日常を送り、今では俺も15歳。

 

 小・中学校は母さんの頑なに譲れない精神に負けて男子校に通っていた。


 だから……。


「お願いだよ、母さん! 高校は共学のところに……女子がいるところに行かせてくれ!!」

「いやあああああああああああ!!!」


 母さんまじ泣き。


 過保護気味な母さんとは一悶着あったものの、現在は念願である男女共学の私立高校に通っている。

 

 入学してから早1ヶ月が経った。 

 貞操逆転世界とあり、元の世界の高校生活と違うことが大きく分けて2つあった。


 まずはクラス内の男女の割合。

 うちのクラスの男子は俺を含めた6人。そのうち1人は不登校で2人はリモートワークに切り替えた。

 なので、クラスには男子が実質3人しかいない。

 それに比べて女子は24人いる。


 そしてもう1つこそが元の世界と貞操逆転世界との最大の違いと言える。


 それは……登下校を含めた学校生活では必ず、にするものというもの。

  

 男子校に通ってきた時も思ったが、この世界の男子は草食系というか……皆、どこか弱々しい。


 男子特有の馬鹿話や下ネタなどで盛り上がることは一切なく、お互いに何かに怯えるようなよそよそしい態度が目立つ。

 もちろん、男子全員がそういうのではなく……と言いつつも大半がそんな感じであった。


 そんな中で俺みたいなお調子者タイプはクラスでは浮くし、白い目で見られたりするわけで……。

 男子校ではあまり友達を作ることができなかった。


  俺みたいなタイプは多分、女子の方が話が噛み合ったりするのだろう。


 んで話を戻すと、男子が安全で楽しい高校生活を送るためにも同伴者という名のボディーガードが必要。


 『女性1人を同伴』とあえて明確に決められていないことから、男子の中にはボディーガードに特化した男性護衛官を雇ったり、はたまた母親を同伴させているやつもいた。


 別に外部の人間でなくとも、クラスメイトにお願いすれば引き受けてくれる。


 俺はどうなんだって? 

 それはだな……。


◆◆


 放課後。

 雑談をしたり、慌ただしく部活にいく女子たちを1番後ろの席という特等席で眺める俺。


「いやー、今日もうちのクラスの女子は可愛いなぁ」 


 気づいたらついつい口にしてしまっている。


 前世と変わらず健全な男子高校生やってます。


 貞操逆転世界の女性は数少ない男性を手に入れようと容姿や身だしなみにかなり気を配っている。

 つまり、クラスの女子は全員可愛いのだ。

 だから可愛いと本当のことを口に出して何が悪い!


「えっ? 今、更科さらしなくん私のこと可愛いって言ってくれた!?」

「いやいや、アタシでしょ!」

「更科くんと目が合った気がした私だしー!」

「何言ってんの。男子があんたみたいな無駄乳を見るわけないでしょ」

「皆、1回落ちついて……。多分、わたしだから」

「「「いや、アンタが1番黙って」」」


 俺の方をチラチラ見て女子たちのざわめきが大きくなる。


 いっぺんに喋っているものだから会話の内容については分からないが、俺が可愛いと言ったことにより動揺しているのは分かった。


「皆、可愛いよ。もちろんこの場にいる全員ね」


 なので、具体的言うことにした。

 ついでに、にこっと微笑めば何故か教室がシーンと静かになった。


 きっと可愛さを自覚したに違いない。 

 フツメンの俺の慣れない笑みがキモかったという可能性は考えないようにしよう。


 それにしても、女子たちの反応から察するに褒められてないみたいだ。

 全く……男子はもっと女子に可愛いと素直に褒めるべきだ。


「あ、あー! みんな見て見て……! 佐宮さんだよっ」

「佐宮さんナイスタイミング……! ……もう少しでわたしの心臓が止まりかけるところだった……」

「それにしても佐宮さんっ。今日もかっこいいよね〜」


 女子たちの視線は俺から教室に入ってきた人物にすぐさま移った。

 

 やっぱりこの世界でもイケメンはモテるよな。

 たとえ、性別が男でなくても。

 

「一季。迎えにきたよ」


 俺の隣から耳触りの良い爽やかな声色が聞こえた。

 見れば、ゆっさゆっさと巨乳を揺らした女子生徒がいた。


 佐宮彼方かなた

 同じ高校に通う同級生にして、小学生からの俺の幼馴染である。

 ちなみにクラスは別だ。


 藍色のベリーショートに切長の瞳。巨乳にすらりと伸びた長い脚。 

 中性的な美貌を誇り、いるだけで目立つであろう男子を差し置き、彼女が学校の王子様とすら呼ばれている。

 外見だけでそう呼ばれているのではなく、勉強やスポーツなど何をさせてもそつなくこなす様からも言われている。


 そして彼方こそが、俺が学校生活を送る上でのだ。


「おう、彼方。ちょうど良いところに。早速だが帰ってくれ。俺はクラスの女子達の観察で忙しいのだ」

「はいはーい」

「いだだだだ!? じょ、冗談だって……!」

 

 彼方はにこっと笑うと俺の頬を左右に引っ張った。

 しかも結構力入れやがったな、コイツ!?


「全く……せっかくボクが迎えにきてあげたのに一季がつれないこと言うからだよ。これはお仕置きだ」

「もっと優しいお仕置きにしてくれ」

「キンタマ鷲掴み?」

「それ、絶対あかんやつ」


 なとど、軽口を叩き合う。

 やっぱり幼馴染という気さくな関係は安心感がある。


「さすが佐宮さん……! すごい!」

「ええ……あんなにも自然に更科くんと話を続けることができるなんて……」

「これが幼馴染の強さ……っ」


 俺たちが会話をしている時もクラスの視線が集まっているのを感じる。

 きっと、イケメンで王子様と呼び声が高い彼方が目当てだろう。

 隣にイケメンがいるということはそれだけ俺のモテ期は遠のくということ。


 そんな俺でも、男であるため女子は積極的に話しかけてくれる。


「ま、またね更科くん!」

「更科くんっ。また明日も学校来てね……!」


 帰る支度を済ませた女子2人が俺に話しかけれくれた。


「おお、また明日〜」


 笑ってひらひらと手を振れば、女子2人は嬉しそうな顔で教室を出た。

 

 彼方に視線を戻せば、不思議そうな顔をしていた。


「一季は昔から女子に対して物腰が柔らかいというか、気さくだよね。女子に恐怖心とかないの?」

「恐怖心がないというか……女子って皆、可愛いじゃん」


 俺としては当然のことを言ったが、彼方の眉間にはシワが寄った。


「一季は相変わらず危機感がないねぇ。女子が可愛いで済んだら警察はいらないんだよ?」


 確かに、最近のニュースでも男子が性犯罪に巻き込まれたとか流れていた。

 容疑者の女性は大体美人で、ここで人生を棒に振るなど勿体無いと思いつつ、それだけ男に飢えているということが分かる。


「でもまあ大丈夫だろ。俺の隣には彼方がいる訳だし」

「そうだね。一季に近づく痴女はボクが追い払うから安心してよ」


 彼方は自信満々に胸を張る。

 その少しの動作だけでもぶるん、と巨乳が揺れた。実に眼福だ。


「さて、そろそろ帰るよ。今日はボクの家でゲーム対戦の続きやるんだろう?」

「そうだった! 今日は負けないからな!」


 教材を詰め終わった鞄を肩に掛け、俺と彼方は並んで帰路につくのだった。


 これが高校生になった俺の日常だ。


 な? 危機感0でも案外平気っぽいだろ?

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