第17話 砂場の記憶
その日、私たちはいつものように、公園の砂場で遊んでいた。私が5歳、マノンが4歳の時のことだ。力を合わせて砂のお城やトンネル、ケーキを作ったあとで、手を泥だらけにしたマノンは突然私に向かって言った。
「私、大きくなったらレアと結婚する」
「無理だよ」
私は答えた。
「どうして?」
「だって、私たちはイトコじゃない」
何故私が従姉妹だと結婚が難しいことを知っていたかと言うと、母にマノンと結婚したい旨を伝えたら、「あなたたちは従姉妹でしょ?」と言われた経緯があったからだ。
「関係ないでしょ!」
怒ったマノンは、私の顔に泥だらけの手を押し付けた。
「関係あるの!」
怒った私は、足元の砂を掌でつかんでマノンの服にかけた。
「レアの馬鹿!」
目に涙を浮かべて、マノンは叫んだ。
「マノンの方が馬鹿!」
私も負けじと言い返す。
マノンはそのまま走り出し、私を砂場に置き去りにして家に帰ってしまった。
残された私は一人ジャングルジムで遊んでいたが、突然泣き出したい気持ちになり、ジャングルジムのてっぺんで、一人大声で泣いたのだった。
♦︎
別に、従姉妹だからって結婚できない決まりなんてない。同性結婚だって一部の地域では認められているし、やる気になればできるのだ。踏み出せないのは、気持ちを伝えたら戸惑うであろう彼女の心を慮るが故。だがそれは、言い訳なのかもしれない。想いを伝えられない、臆病な自分を誤魔化すための。
客間の本棚の上には、薄いオレンジ色の液体が入った、丸い瓶の香水が置かれている。
これを、まだ持っていてくれていたのか。不意に、笑顔が溢れる。
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