第15話 驚き
部屋の扉を開けた私は、目を疑った。マノンが私のベッドの上、下着姿のままで寝ていたからだ。微かに漂うアルコールの香りと、床に散らばった洋服から察するに、昨日コレットたちとバーにでも行って酔って帰ってきて、着替えている途中で寝てしまったのだろう。ブラジャーとショーツ姿でうつ伏せに眠る従妹にブランケットをかけてやり、足早に部屋を出る。
ドアを後ろ手に閉め、深呼吸をする。
私は昨日、午後からザルツブルグでダンスのイベントがあって、日帰りするにも片道半日かかるので、一泊して帰ってきた。まさか、帰ったらこんな光景が広がっているとは夢にも思ってみなかった。
そもそも、従妹の下着姿に何故こんなに動揺しているのだろう。その答えは明白だ。
何度目かの深呼吸の後で、頭を抱える。どうかしている。幼い頃から、マノンの裸なんて数え切れないくらい見た。一緒にお風呂に入ったり、着替えたりすることなんて当たり前だった。だけど、いつからだろう。彼女の白い肌に視線を向けることに、罪悪感を覚えるようになったのは。
逃げるようにやってきたキッチンで、冷蔵庫を開ける。輪切りにされたレモンが何切れか浮いている炭酸水を、グラスに注いで一気に飲む。熱を帯びた頭を冷ますかのように。
「レア、帰ってたのね」
コレットがやってきて、あくび混じりに声をかける。彼女のハニーベージュの髪には、わずかにアホ毛が立っている。起きたばかりの小学生のようだ。そんなことを言ったら彼女は怒るに違いないが。
「うん。マノンってば、下着姿で寝てるのよ。全く、参っちゃうわ」
「レア、真っ赤になってるよ」
「うっさい!」
からかうコレットを睨んで、未だ冷たさの残るグラスを頬に当てる。
「やっぱりレアは、マノンが好きだよね〜」
「……」
彼女らの間では、私のマノンへの恋愛感情は暗黙の了解(こうして話している時点で、もはや暗黙ではないが)となっている。最初に気づいたのはイダだった。彼女は普段口数が少なくクールに見えるので、一見人に興味がないように見えるが、見ていないようにして見ている。
最初は冷やかされるたびに否定していたけれど、今となっては無意味に思える。きっと、マノンだって私の気持ちに気づいている。
「昨日ね、マノンにしては珍しくお酒飲んでたの。それで、これは絶対マノンには内緒にして欲しいんだけど……」
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