第2話 再会
空港で再会したルネとイダは、手土産に私の好物の猫型のマドレーヌを持ってきてくれた。
「レアのプレゼントを選ぶのと一緒に、あなたにも何か買ってこうかと思って」
画家のルネは、長かったブラウンの癖毛の髪を肩の上らへんで切りそろえていて、それがとてもよく似合っている。一方のイダは、褐色の短い髪を黒く染め、ツーブロックにしている。モデルのイダは、どんな髪型でも良く似合う。
「ありがとう、すごく嬉しい」
2人にお礼を言い、半年ぶりに会えた喜びを噛み締める。
「相変わらず、お綺麗ですこと」
イダがいつもの淡々とした口調で私を褒める。ありがと、と笑いかけると、彼女の口元にも小さな笑みが浮かんだ。
コレットの運転する車の中、バックミラーに移るルネとイダの様子を眺める。以前から抱いていたイダがルネを好きなのではないか疑惑は、私の中で確信に変わりつつあった。イダは普段ほとんど表情が変わらないので分かりにくいが、先ほどからずっとルネのことをチラチラと見ているし、ルネと話す時だけ挙動不審になる。
「コレットが運転してるとさ、子どもが運転してるみたいだよね」
コレットをいじるルネの声が、後部座席から流れてくる。確かに、150センチに満たない童顔のコレットがハンドルを握っているというのは、小学校高学年の子どもか、中学生が運転しているように見えなくもない。
「うるさい、ルネ!」
コレットが怒りを露わにする。彼女は自分の幼い容姿に対して、かなりのコンプレックスを抱いているらしい。私から見たら、コレットは可愛さの塊にしか見えないのだが。明るいハニーベージュの猫っ毛の髪も、大きな緑色の二重瞼も、小さくて少し厚い唇も。全てが可愛さで溢れている彼女が、もはや羨ましいくらいだ。
「そういえばマノン、髪切ったよね」
ルネの指摘通り、私はウィーンに来てから長かった髪を切ってボブにした。父親に何度も年寄りみたいだと笑われたプラチナベージュの髪もついでに染めてしまおうかと思ったが、レアに止められた。
「あなたはあなたのままが一番いいよ。無理に変える必要なんてない」
髪を染めたい理由を打ち明けた私を、レアはそう言って励ました。彼女はいつも、私が欲しい言葉をくれる。彼女はこうも言った。
「それに、その髪の色かなりクールだよ。なりたいと思ってなれるもんじゃない。絶対そのままの方がいいって!」
レアの髪は、母親譲りのブロンドだ。幼い頃から、その太陽のように美しい彼女の髪と成り代わりたくて仕方なかった。その上彼女の目は澄んだブルーで、その瞳に見つめられるたびに不思議な気持ちになった。雲一つない真夏の空の中に、私がいるようで。
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