第二十五集 越訴
夜が明けた。真っ黒な柱と梁を残して全焼した納屋の前に、
火災の原因は
この世界は、よほど
生母は家を追い出され、幼馴染みの侍女は死んだ。父はもはや庶子を
もうどこにも、
そう思った途端、ふっと、笑いが漏れた。込み上げる笑いが止まらなくなり、
近くで片づけをしていた使用人たちが異変に気づいて、ちらほらと手を止め顔を向ける。奇異の視線を向けられても、
やがて、報告を受けたらしい
「
呼びながら
「
笑いが引っ込むと同時に
「
目を剥いて、
「
「とき……なんだって? なにを言っているんだ」
「わたくしたちはみんな、
笑い続ける
「
気が触れた――確かにそうかもしれない。そのように見えるだろう。彼らは、『霜葉紅』も、
そんな当たり前のことを改めて悟り、
唐突に黙り込んでうつむいた
「色々なことが起き過ぎて混乱しているんだ。昨夜は眠れていないだろう。今からでも少し寝なさい。誰か、
「一人で平気」
奴婢が駆け寄ってくる前に、
「一人で平気――一人にして」
宣言と共に、
感情は底をついたままで、いまだ恐れも悲しみも追いついてこない。それでも、逃げるような心地で早足に
『霜葉紅』で、
証人だった
さりとて、生き延びる道が
不審点が多かろうと、
生きるだけなら、黙ってさえいればいい。黙っていれば――
普段の移動は
それでも、見えている目的地に向かう分には迷いはしない。京城の中心を走る
そうした景色に目もくれず無心に歩き、やがて
朱塗りに金の
千徳門には、
ただし、順序を踏まずに訴えを起こす
一本の
どんっ、という音と共に一帯の空気が大きく震えた。
叩いた反動が思いがけず大きく、跳ね返った
体勢を立て直し、今度はしっかりと両脚を開いて腰を入れて、
どん、どん、どん、と。鼓面が震えるたび、行き交う人々が足を止め、振り返る。噂の種を求める人の群れは徐々に膨らみ、あれは誰だ、前に登聞鼓が鳴ったのは何年前だったかと、額を寄せて囁き合う。
そんな好奇の視線など歯牙にもかけず、
重い
朱塗り門扉がごくゆっくりと、一人分の幅だけ開く。出てきたのは、特徴的な縦長い黒帽を被った
「
見た目にそぐわぬほど高く澄んだ声で、宦官は問うた。
「
「この
宦官からの静かな
「どうか、妹の
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