第二十四集 代替
「だって……三娘子は、
戸惑いげに言った
「……わたくしのなにを見て、そう思ったの?」
「なにを見て、と言うか――少なくとも
「三娘子が子供の頃から世子のことをお好きなのを、わたしは一番知っています。四娘子が世子に好かれているのは、母親を亡くしたことに同情されているだけです。わたしがなにも言わなければ、四娘子は刑を受けて、世子は三娘子の方へ――」
「黙りなさい!」
堪えきれず、
ひどく動悸がした。冷や汗が止まらず、額が冷たい。
『
「なぜ怒るんですか。わたしは、三娘子のためにしているんです。四娘子さえいなくなれば――」
「黙ってと言っているの!」
「嫌です」
初めて
「わたしは、三娘子には誰よりも幸せになって欲しいんです。そのためなら、わたしはなんでもします。命だって捧げられます。三娘子への恩は、それでも返しきれません」
「それで
「構いません」
わずかの迷いもなく
「親は、わたしを五歳で売りました。そんなわたしに、三娘子はご自分の菓子を分けてくださいました。三娘子が一緒にと言ってくださったから、
「
「いい加減にして!」
ついに
「わたくしがいつ、そんなことを望んだのよ! それでわたくしが喜ぶと、本気で思っているの? あなたの独りよがりが、わたくしを追い詰めていることが分からない?」
感情が高ぶるあまり、
「あなたのしていることは間違っているの。全部、間違いなのよ! 妹のように思っていたけれど……こんなことになるのなら、卑しい奴婢になんか優しくするのではなかった」
責め立てている内に、なぜが笑いが込み上げてきた。
「あなたのせいで、わたくしは死ぬわ」
仰天した顔で頬を押さえていた
「駄目です!」
必死の形相で、
「それだけは駄目です! わたしはどうなっても、三娘子がいなければなんの意味もありません」
縋られた途端に、
表情を消した
「わたくしに生きていて欲しい?」
高飛車に顎を上げて、
「それなら、今の話をすべて二兄上に言うのよ。証文をどうやって偽造したのかも、なぜ
それで
完全に切り捨てられたと、
「三娘子……」
「自分で犯した罪は、全部自分で始末をつけなさい」
縋る手を、
「……かしこまりました」
納屋の
明日、
ところが不意に人の声がして、
ぼんやりと眺めやった室内に、人の姿はなかった。目覚める切っかけになった声は誰かが起こしにきたわけでなく、外から聞こえてきたもののようだ。
起き抜けの頭でそう考えて、淡く光の差し込む窓の方へと顔を向ける。窓の紙を透かす光が赤く揺らいでいるのを見て、
夜空が、赤く染まっていた。
火災だ、とすぐに分かった。今いる場所から炎の姿は見えないが、影の塊となっている屋根の向こうで
「三娘子」
「どこから火が? 皆は無事?」
「皆様ご無事なので安心してください。
侍女の言葉を最後まで聞く前に、
寝衣のまま右へ左へ駆け回る使用人たちを掻い潜って、
熱風が体を打った。叫び交わす使用人たちの声で鼓膜がキンと痛む。水を運ぶ人波の先で納屋が一棟、赤に金に燃え上がる炎に包まれていた。炎の明るさに、目が眩む。
「
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