第二十三集 真相
使用人たちもすっかり寝静まった深夜。
今の家の状況では例年のように華やかに祝うことはとてもできないが、国を挙げての祭日ではあるので最低限の飾りつけをして体裁は整えているのだ。
暗色の外套がこの身を隠してくれるか不安はあるが、今さら引き返す選択肢はなく、
人の気配に意識を尖らせながら
石畳を歩いている途中でふと、夜空を横切る灯りに気づいて、
奔放な筆運びの絵が描かれた紙の灯籠が、熱の力で一つ二つと夜空にのぼって行くのが見える。
天灯は節句の夜に願いを書いて飛ばすものだが、気の早い誰かが明日を待ちきれなかったのだろう。月や星とは違う、夜空の温かな彩りにしばらく見入ってから、
窓の隙間から見える納屋の中は闇に包まれ、少しも物音がしない。それでも、ここであっているはずだという確信のもとで、扉の
「
扉を開いて、そっと中へ呼びかけた。声は返ってこない。
納屋の中へ身を滑り込ませて、扉を閉める。
「
「……三娘子?」
やっと返事があり、
竹筒に仕込まれた
暗闇で物を蹴らぬよう慎重に
「そのままでいいわ」
「……申しわけありません」
力ない謝罪に対し、
板で打たれると皮膚が裂けて、傷が塞がるまでの数日は座ったり歩いたりが困難になるものだ。その上こうして、
「あなたと、もう一度ちゃんと話すべきだと思ってきたの。これを見て」
「これが、なにか分かる?」
言われるままに、
最後まで読み終わったところで、
「
「
証文の左端、
「霜葉茶坊の証文には必ずこの印が使われるの。でも、大兄上のところにあった証文は拇印だった。ということは、おそらく印のことを知らない人が偽造したものよ」
「……そうかもしれません。でも、なぜそれをわたしに言うのですか」
「あなたなのでしょう?」
勢いよく、
「
「あなたしか、いないの。証文を偽造して大兄上の荷に紛れ込ませることができるのは、あなたしかいない」
侍女の咄嗟の否定を、
「そんなはずありません。大公子のところに出入りしていたのは、わたしだけではありませんし、なにより拇印はどうやって――」
「
直接、確認してはいないが。と、
途端に
「なぜ、
「……大公子が、茶坊を欲しがっていたからです」
「大兄上が? どういうこと」
間髪をいれず
「証文を証拠に、
「そうだとしても、茶葉くらいで茶坊がとり上げられるほどの金額になるもの?」
「そのために、
不思議には思っていたのだ。茶坊に置かれている茶の在庫は、帳簿に出入りが記録されている。にもかかわらず、
しかし、
優しい
本来の『
現在の状況を第三者から見れば、元の物語と
「どうして二兄上の前でその話をしなかったの」
いたたまれずに、
「だって……三娘子は、
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