第十三集 巧果
たすき掛けをした
「どうかしら」
「とってもいい感じ。まとめて焼くから、そちらへ一緒に並べて」
さらに
「
「はい」
「そっちに色粉と抹茶があるから、よかったら使ってみて。ひと摘まみでしっかり色がつくから、少しずつね」
「分かりました」
てきぱきと指示を出し、
また、
霜葉茶坊でも
「三姉上、少し食べてみて。まだ熱いから気をつけて」
手の平の粉を軽く払ってから
両面をこんがりと焼き上げられた巧果は歯を立てると、さくりと音をたてて砕けた。噛むほどに口の中でほろほろと崩れ、焼きたての熱がほのかな甘さを伴って舌を覆う。
「美味しくできていると思うわ」
感想を言う
「うん。美味しい。この調子でどんどん焼いちゃいましょう。明日までにできるだけたくさん作らないと」
黙々と生地の型抜きをしながら、
この姉妹での巧果作りの場面も、『
大兄・
こうして一緒に巧果を作るのも、その策の内にある。『霜葉紅』はそういう物語だ――本来ならば。
実際のところ今の
大兄と生母を止めることはできなかった。だからあえて、
それが一番の、死への抵抗になる。
この先、
ならば邪魔な
けれども今は、
「
呼ばれた
「ありがとう
「分かったわ。すぐに行ってくるわね」
女将のような歳の重ね方は理想かもしれない。などと少しばかり感嘆しつつ
「今日はずいぶん早く茶坊を閉めるのね」
巧果の型抜き作業を続けながら、
「早めに閉めないと、明日の準備が間に合わないもの」
「今年の
炙った紫蘇の葉を煮出した紫蘇熟水は、鮮やかな紅色が美しい夏の定番の飲料だ。霜葉茶坊の紫蘇熟水には少量の岩塩が加えられていて、爽やかな紫蘇の風味とほのかな
「そういうことを考えて行動できるところが、
「その分、三姉上みたいな令嬢らしいことはなにもできないけれどね」
捏ね上がった巧果の生地を綺麗に丸めて、
「今日は帰りがかなり遅くなると思うから、家で誰かに聞かれたら茶坊にいると言っておいて」
それを聞く者は、はたしているだろうかと、
「ええ。伝えておくわ。明日は
『霜葉紅』でもっとも胸躍る、恋の祭事が始まる。
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