第十一集 動揺
精一杯に背伸びした贈りものを簡単に手放されたとを知った
悲しむ
結果として、縁談を
たった一本の簪で軌道修正をしてのけて、
次にとれる手立てに思考の多くを費やす日々が続く中で、
この日、茶坊を訪れたのは
「そうだ、三姉上。大兄上にはもう会った?」
四妹の口から出た思いがけない単語に、
「大兄上?
つい声が大きくなった
「今日、茶坊が開店してすぐに、少しだけきていたの。十年振りだったから、わたしも始めは分からなくて。向こうから声をかけてきて、びっくりしちゃった」
思い返すように言った
動揺のあまり、
「本当に、兄上がここに?」
再び聞き返してしまってから、なんて意味のない質問をしているのだろうと
けれど聞かれた
「ここを出てからすぐに
「会ってないわ。入れ違ったのかもしれない」
「親や同腹の妹よりも先にわたしに会いにくるなんて、大兄上ったら。らしいとでも言うべきかしら」
困惑げに眉間を開いて、
「仕方ないわ。そういう人だもの」
「
「商いの話、まさか真に受けたりしていないわよね」
身を乗り出しながら置いた
「具体的な商いの内容までは聞いてないけれど、挨拶だとかで雲州の銘茶を色々と置いていったから、茶商でも始めるのかも。ただ実は、置いていった中に
蘭鳳団は皇室への献上品として、鳳凰の金型を使用して作られる特別な団茶だ。市場での流通が皆無ではないが、市井でたやすく目にできるものでないことは確かだ。
「
「どうして?」
「どうしてもよ。お願いだから、大兄上とだけは関わらないで」
握る手の力を強め、
大兄・
物語としては、
そんなことを知るよしもない
「もしかして三姉上……大兄上が一人で出ていったのを、今でも恨んでいる?」
この四妹の優しさが、
そして『霜葉紅』の記憶を得て以降は、兄が帰ってくる日をもっとも恐れてきた。
長らく探すもまったく行方のつかめなかった
「わたくしが兄上を嫌いとか恨んでいるとか、そういう話ではないの。とにかく、絶対に関わらないで」
早口に念押しして、
「用事ができたから、わたくしはもう帰るわね。また大兄上がきても、相手にしては駄目よ」
「え、ちょっと、三姉上!」
「
「大兄上が帰ってきたそうよ」
並んで階段を駆け下りながら、
「そんなっ。わたし、なにも聞いてない……」
狼狽からか、
「
茶坊を出て桟橋を駆けながら、
使用人である奴婢たちは、主人の使いなどで単独での外出機会が多い。そうしたときに、彼らは他家の奴婢と交流を持って独自の情報網を築いている。仕送りなどで頻繁に実家とのやりとりをしている者などは、遠方の情報に通じていることもある。他家でなんらかの事件が起きたとき、外部にいながらにして真っ先に異変を察知するのも、大抵が奴婢たちだ。
そうした広範囲にわたる奴婢の情報網に、
違和感に、早く気づくべきだった。
入れ違いで
慌ただしく
入って正面の
こちらを見た郎君のくっきりとした顔立ちに自分との血縁を見出し、
まだ少年だった十年前よりも大きく背が伸びて、顔も体格もすっかり大人のものになっていたが、大兄・
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