第九集 警告
侍女の蹴った羽が、方向を誤って
羽が高く弧を描き、
「三姉上! お帰りなさい、早かったのね」
「
挨拶も返さずに、
「兄上はまだいないわ」
「そう……」
二兄・
「分かったわ。ありがとう、
当てが外れたと分かるなり、
二兄に頼れないならば直接こちらから出向くまでだ。皇城の門は皇城司が守っている。彼らに聞けば、
「誰か、馬を引いて」
適当な家僕に声をかけつつ、
まるで待ち構えていたかのように佇む公子から目を離さぬまま、
「わたくしに、なにか用事?」
「君が、わたしを探していると思ったのだが?」
「…………」
大きく息を吸い込み、
「場所を移そう」
「……ええ、そうね」
門前で言い争っては人目を引く。
「これはあなたの
前置きはせず、帯に挟んでいた紅珊瑚の簪をとり出して
「
「人聞きが悪い。君に忘れものを届けてやっただけだ」
やっと口を開いたかと思えば、皮肉が飛び出す。
「どうやって
「
言い終わりに
皇城司は国家中枢たる皇城の警備を担っているが、それは表向きの職掌だ。彼らの本領は、諜報と監察にある。
玉座に座っているだけでは聞こえない庶民の声や市井の情報を皇帝に代わって収集し、朝堂では決して上奏されない官吏や軍人の汚職を炙り出して摘発する。
天子の耳目であり爪牙。皇帝による独裁の
その能力を知らしめられた
「とんだ職権乱用ね」
「かもしれないな。なにせ、わたしは作者だ」
まさしく、としか言いようがなく、
反論がないと見るや、
「このあと、君には二つの選択肢がある。この簪を
簪に添えていた手を持ち上げて、彼は
「
提示された未来に
「だったらこんな簪、処分して――」
「処分したら、そのことを
「
「言ったはずだ。これはわたしの作品だと。忘れてしまったのなら、もう一度言う。君に作品を書き替える権利はない」
八年前と同じ冷徹な眼差しが、
「次があると思うな」
低く言って、
橋の上に立ち尽くす
母子が橋の階段をくだりきる前に、
とても奇妙な感覚だ、と。
本来、この世界の誰もそんなことを知るよしはない。『霜葉紅―さやけき恋は花より
その中でなぜか
「
歳下の侍女は傍までくるや、
「帰ってくるなり、また出かけたと聞いて驚きました。供も連れずに、どちらにいらしたんですか」
幼くして
「そう怒らないで。すぐ帰ってきたのだから。それよりも
話題を変えれば、
「
「方々で聞き込みをしていますが、まだ見つかっていません」
「急ぐように伝えて。とにかく早く、大兄上がどうしているか知りたいの」
「かしこまりました」
承知を示した
家を出て数年は行き先を把握できていたが、いつからか音沙汰が絶え、今やすっかり行方が分からない。ただ、生きていることだけは間違いない――『霜葉紅』で
行方不明の
しかし、
どれだけ
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