第八集 簪児
一人乗りの
二人がやってきた
のんびりとした歩みで流れていく参詣の列に、
この日、清雲観への参詣を提案してきたのは、
出かけ先として目新しさはないが、とり立てて断る理由もない。
茶坊では
参詣者の列は長く見えたものの、予想よりも早く順番は回ってきた。線香の香りで満たされた荘厳な本堂での参拝を済ませ、
本堂横の細い石段を黒衣の道士らとすれ違いながらあがり、白壁を円に穿った
多少は評判になっているとあって、本堂ほどの賑わいではないにせよ奥院にも見物客の姿がいくらかみられた。先客らの優雅な歩みを真似るように、
「本堂は人が多かったですが、疲れてはいませんか」
緩やかな歩調を維持したまま、これまで言葉少なだった
「平気です。わたくしよりも、
「心配にはおよびません。書生をしていると体力がないように思われがちですが、これでも体を動かすのは結構好きで」
「なにか、競技などなさっていらっしゃるんですか」
「
蹴鞠は二組対抗で足のみを使って
「わたくしはそういった競技はあまり得意でないので、得意な方は尊敬してしまいます」
「興味があるのでしたら、競技会があるときには招待をしますが、いかがでしょうか。観戦だけでも」
つけ足すように言った終わりの一言で、
いつまでたっても不慣れさが抜けない公子に、
「楽しみにしていますね」
その後もぽつぽつと互いのことを語りながら、奥院の前庭をそぞろ歩いた。紅、白、紫に咲き誇る牡丹の大輪の間を通り抜けるたび、淡く甘い香りが鼻腔を通って気持ちを冴えさせる。
やがて話題も尽き、そろそろ下山しようかという頃合い。わずかな沈黙の隙を突くように
「
呼ばれて、
「実は、今日はこれを渡したくて」
そう言いながら、
見覚えのある品に、
立ち尽くす彼女のようすには気づかないまま、
「これを見たとき、
息をのむ間を置いてから、
金軸の先に飾られた紅珊瑚は自然の形のまま、ごく小さな枝を伸ばしている。真紅の枝には、小粒の真珠が実っている――
「これは、一体どこで?」
「え?」
「あ、いえ。とても素敵な簪ですから、どちらで手に入れられたのか気になって。可能なら、扱っている店にも
得心がいったようすで、
「
「そうですか……」
落ち込んだ風を装って、
見れば見るほど、先日に
深呼吸して強引に動揺を押さえ込み、
「ありがとうございます」
お礼を言えば、
あまりにも正直な公子に対して申しわけない心地を味わいつつ、
「
「気がつかず申しわけありません。それなのに、ここまでつき合ってくださり、感謝します。お宅までお送りします」
帰路に就きながら、
『
とにかく早急に、
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