第六集 縁談
「三姉上、三姉上、三姉上!」
家族の誰よりも天真爛漫な
「三姉上ってば、遅いじゃない。帰ってくるのをずっと待ってたんだから」
「ちっとも遅くないわよ。少し早く切り上げてきたくらいよ。
「母上の前で走ったわけではないから叱られはしないわ。それより聞いて。今、
「
遅れて駆けてきた侍女の呼びかけが、
「お帰りなさいませ、
礼を終えるなり、侍女はすぐさま
「五娘子、お
侍女は切実な表情で言い募ったが、
「平気よ。父上と母上は
「
その名に引っかかりを覚えて
「
うきうきと報告する末妹のようすに、
「
「ほんのちょっとだけよ。顔と名前が分かる程度だけ。三姉上だって気になるでしょう?」
姉とはいえ庶子の立場から嫡子の行動にあまり口を出しては角が立つ。末妹を叱るのは
「確かに、少し見にいった方がいいかもしれないわね」
「でしょでしょ」
「
「えー。そんなの狡いわ、三姉上」
「
「え、どれどれ」
一度は不満の声をあげながら、
「わあ! 今日のはとびきり綺麗ね。
後半は自身の侍女に向けて、
五娘子お付きの侍女はまたしても、主人の後ろを
まだまだ幼い末妹とその侍女の後ろ姿をほほ笑ましく眺めて、
二人の前へ進み出る途中で、
家主夫妻の前で、
「父上と
「ちょうどいいときに帰ってきたな。そちらは、
父にうながされるまま、
「
「
互いに一礼から顔を上げたところで、初めて両者の目が合う。
二人の挨拶が済むなり、
「さあさ、二人ともおかけなさい。
嫡母の
それが今は、まるで実子に接するときのような穏やかさなのだ。
「
『
しかし
こっそりと、
今は農民の身分とはいえ学問所に通っている以上は、目指す先は科挙合格からの官僚だろう。それが実現すれば、少なくとも今の暮らしから大きく格が下がることもないと思われる。
この縁談を受ければ、死に怯えずに済む道が手っとり早く開けるのではないか。
談笑につき合いつつ、
そのとき、茶を飲みきった
「
始めに挨拶を交わしたときと変わらぬ丁寧さで、
「こちらこそ足を運んでいただいた上に、長話につき合わせてしまったようで」
「
外は茜色に染まりつつあった。春といえど暮れ方ともなると風が肌を冷やし、散り始めの
門へ続く
「今日はわたくしも兄も出かけていて、あまりおもてなしできず失礼いたしました」
「いいえ。
振り向いて足を止めた
「二兄に変わってお礼申し上げます」
「わたしも三年後の科挙に向けて勉学に励んでいます。ぜひ、
「
「感謝いたします。精一杯、力を尽くします」
応えた
二人は当たり障りのない会話を続けながら、ゆったりとした歩みで表門へ向かった。途中で仲人の女性が追いついてくるかと思っていたが、一向にそのようすはない。待っていては日が暮れてしまうということで、
「それでは、わたしはこれで」
「あの……」
なにか言いかけたところで、
「また、お会いできますでしょうか」
「ええ。いつでもご連絡ください」
強張っていた
公子は相好を崩したまま深々と頭を下げ、跳ね出しそうな足どりで改めて目抜き通りの方へと歩み去る。その背中を、
会話した時間はほんのわずかではあるが、飛び抜けた長所は見られなかったものの、少々内気そうである以外に特筆すべき欠点もなさそうだ。将来性まで評価基準に含めるならば、そう悪い縁談ではなく見える――円満にとなると、いくつか解決せねばならない問題点はあるが。
とりあえずは問題点の一つをなんとかしてみようと、
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