第三集 茶坊
皇宮が中心に
四つもの河が城壁を
十七歳の
桟橋を渡った先の通りでは、文人たちが屋外に出した卓を囲み、
茶坊の中も、多くの
「
卓の間を縫ってきた
「
「分かっているわ。ありがとう」
最低限のやりとりだけで、
霜葉茶坊の二階は、より上等客に向けたいくつかの個室になっている。階段を上りきると一階の喧噪はやや遠のき、代わりに
今日の楽戸はとりわけ調子がいいようだ、などと思いながら、
河に面して大きく窓がとられた個室は、たいそう明るかった。中央に七人がけの円卓があるほか、窓横の隅にこまごまとした道具の並んだ机と、小振りの炉が据えられている。ここで茶を点てられるようになっているのだ。
室内にまだ誰もいないのを確認した
団扇で軽くあおげば河面を渡った春の風が顔に触れて、たいへん心地がいい。窓の手摺りに軽くもたれ、小舟が水音をたてて行き交うのを眼下に眺めながら、目的の人物がくるのをのんびり待つことにした。
ほどなく、扉の開く音が静けさを割った。装飾を控えた上品な身なりの若い娘が、四角い茶器籠を抱えて慌ただしく入ってくる。
「
そう早口に言って、娘は茶道具の置かれた机へと一直線に向かう。三ヶ月違いの
「焦らなくていいわよ、
「三姉上はお客様なのだから座っていて。すぐにできるから」
茶器籠を置いた
四妹の手際のよさに、
姉妹といえども、腹違いの二人の顔はあまり似ていなかった。彫りのくっきりとした目鼻が妖艶さを
「ちょうど
茶器籠からとり出した円形の紙包みを軽く掲げて見せ、
雲州は皇室の献上茶を生産する
四妹の得意げな表情と仕草を、
「それは楽しみね」
「今季最高の品よ。期待して」
淡く立ち始めた茶香の
この霜葉茶坊は、
それがはたして、
とはいえ、九歳で庇護者を失った
『霜葉紅』は
そのことを意識すると、軽やかに茶を点てる
問題ない。『霜葉紅』の
「どうぞ」
「ありがとう」
礼を言えば、
気をとり直して、
茶の
四妹の才能を少々羨む気持ちも抱きつつ、
そのとき、再び個室の扉が開いた。
「申しわけない。遅くなった」
詫びの言葉と共に入ってきたのは、二兄の
「
「仕方ないだろう。夜勤のあとだ」
「そうは言っても、朝から午前いっぱい寝ていただろう。これ以上は寝過ぎだ。かえって体を損ねる」
「分かっている。子供ではないんだ。言われずとも自分の体調くらいは自分で管理できる」
個室へと入ってきた
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