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 険しい顔をした刑事は、春太と顔見知りだったらしい。素人相手に話すことでもないだろうに、あっさりと告げた。


「自殺だったよ」


 そのときの春太のニヤリとした顔を、私は一生忘れないだろう。


「やはりそうでしたか。ええ、そうだと思いました。紀人さんは沙枝さんを殺害し、その後、自殺を――」

「いや、そっちじゃない」


 刑事は首を振り、私達もまた、ぽかんと口を開けた。そっちじゃない。そっちじゃないとは、つまり。


「自殺したのは沙枝さんの方だ」


 何で、と七子が小さく呟く。


「け、汚されたことに生きる気力をなくし、自殺を図ったと?」

「汚された? 何を言ってるんだ」


 春太だけではない。全員が呆気にとられていた。春太の推理がハズレてほしいと願いながら、私もまた心のどこかでは信じていたのだ。


「じゃ、じゃあ、沙枝さんが紀人さんを殺したということですか?」

「さすがにあんな小さな女の子がやったとは考えたくねぇが」


 刑事はボリボリと頭を掻くと、厄介そうにこう締め括った。


「やむにやまれぬ事情があったのかもしれねぇな」

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