2
小屋に訪れた私達は、目の前に広がった光景に立ち尽くした。
やがて
探偵などと自称して胡散臭いこと極まりないが、今の落ち着き払った様子を見るに、あながち嘘ではないのかもしれない。
春太は脈を測り、その死体がよくできた人形でないことを証明すると、呆然とする私達を振り返りこう言った。
「これは殺人事件です」
見ればわかることを、なぜわざわざ口にするのだろう。
七子がその場にしゃがみ込み、えんえんと泣き始める。弟が殺されたのだ。無理もない。
「な、何でだよ。誰がこんな惨いこと」
「屋敷から小屋に来るまで三分。その間、小屋から出てきた者がいなかったのは、皆さんも承知のはずです」
現在私達が寝泊まりしている屋敷から、物置と化した小屋までの間に遮蔽物はない。誰かが出入りすれば、必ず目撃できるはずだ。
春太が腕時計を確認した。私もつられてスマホを見る。時刻は午後三時ジャストだ。
「犯行時刻は二時から二時五十七分。
本当にそうだろうか。
確かに私達が屋敷を出たのは二時五十七分だ。けれど退屈だった私は、二時から三十分ほど、この辺りを散歩していた。
そして十五分頃、小屋に向かう紀人の後ろ姿を見かけたのだ。それ以外に、小屋に行った者はいなかった。
「わ、私は、二時からずっと部屋で休んでて、二時半くらいに目を覚ましたの。それから三十分くらい、窓の外をぼんやり眺めていたわ。だけど誰も、小屋には行ってなかった」
涙をこぼしながら、震え声で七子が証言する。
しかし、それならおかしなことになる。紀人も含めて、ニ時前には全員揃っていたのだ。一体いつ、小屋に行ったと言うのか?
答えを求めるように、私は投げ出された白い足を見下ろした。
「ふむ、とは言っても、七子さん。あなただってずっと注視していたわけではないでしょう。
そう言われてしまうと首を縦には触れない。私達が目を離した隙に小屋に入った可能性は、十分存在するのだ。
「不可解なのは、この濡れた地面ですね」
小屋の床は水浸しだった。床の上には物が散乱していて、棚まで倒れている。争った形跡があるのは確かだ。
「考えられるのは、何らかの痕跡を消すため」
「痕跡って、足跡とか?」
「かもしれませんね」
春太は当たり障りのない返事を返すと、立てた人差し指をくるくると回し始めた。気取った仕草が、妙に癪に障る。
「一先ず屋敷に戻りましょう。皆さんのアリバイを確認しなければ」
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