大王様の異世界転移
「おい貴様! 我輩のマントを
朦朧とする意識から目覚めた我輩は、あらゆる魔法を跳ね返す家宝のマントを何かに引っ張られている気がして目を向けると、あろう事かガジガジ噛み付いてるネズミを見つけて慌てて追い払った。
しかも
「勘弁してくよ。このマントは一張羅だっていうのに――って臭っ!! なんだこの臭いは!?」
何処にも傷がないか念入りに確認してると、鼻を突く腐敗臭に思わず顔を背けた。恐る恐るあたりを見回すと、どうやら我輩、ゴミ置き場で横になってたっぽい。
「一応、我輩百万からなる部下に、〝一万の夜を従えし男〟と尊敬されてるんだけど……」
これが異世界の洗礼というやつなのか――状態異常なんて無縁の我輩ではあるが、あまりに臭すぎて結構
「というか……ここは一体何処なんだ? 我が栄光の魔族領が霞んでしまうほどの煌びやかさではないか。もしや、とんでもない世界に転移したのではあるまいな」
ゴミ置き場から見上げる景色は光で溢れていた。見慣れぬ建物が立ち並び、魔法由来ではない明かりが
その下で異世界の人間族の雄が、なんとも防御力の乏しそうな胸元をやたらと
ははん。あれは我輩も知っているぞ。冒険に向かう前に
そういえば勇者も女性の仲間が多かった。ほとんどが肉体関係を持っていたので童貞で大魔王の我輩、ブチギレて殲滅してやったわ。この世界にもどうやら似たような冒険者は存在するらしい。
「ウオッ! なんだアレは!?」
視線を彷徨わせていると、我輩の居城が霞むほどの高さの建築物の陰に得体の知れない巨大な
かつて我輩が手懐けるのに難儀した
「クソッ、異世界に転移してきて、まさか最初に人間族を救うことになるとはな」
目の前の敵は排除するべし――幼い頃から先代魔王に叩き込まれた家訓通りに、両手を宙に掲げて最大魔法で迎撃する準備をする。詠唱破棄でさえ一国の軍隊を滅ぼす威力の撃滅魔法を放とうとしてところで、邪魔が入る。
「縺。繧?▲縺ィ縲√◎縺薙?蜷」
「なんだ、今手を離せないんだ」
肌がひりつく高揚感の最中、空気を読まない人間族に肩を叩かれ声をかけられた。現地の言語なので何を話してるのかは全く聞き取ることができない。
他の連中とは違う服に身を包んでいるみたいだが、街の治安を守る衛兵か何かか? いずれにせよ、今はそれどころじゃないというのに……あれ?
そこでようやく気がついた。我輩、魔法使えないんですけど。
「蟆代@隧ア縺後≠繧九s縺?縺」
「だからしつこい! 気安く我の身体に触れるでない!」
「繧ウ繧、繝?シ√??閨キ蜍吝濤陦悟ヲィ螳ウ縺ァ迴セ陦檎官騾ョ謐輔□」
蝿のようにしつこく、鬱陶しさのあまり手で振り払うと、血相を変えて怒鳴り声をあげてきた。本来であれば貧弱な人間族相手に
ていうか……我輩押し倒されるなんて初めてなんですけど? プライドが音を立てて崩れてくんですけど? せめて押し倒されるならサキュバスみたいな女性がいいんですけど?
「縺薙?諤ェ縺励>鬚ィ菴凪?ヲ窶ヲ繧ッ繧ケ繝ェ縺ョ螢イ莠コ縺ァ縺吶°縺ュ?」
「繧ゅ@縺上?繝、繧ッ荳ュ縺ョ縺ゥ縺」縺。縺九□繧」
「いや、貴様らさっきから何を話してるのかさっぱりわからん! ステータスオープン!」
両手を完全に押さえ込まれ、無理やり立ち上がらされた我輩は、数多のスキルの中から翻訳スキルを選択して使用した。翻訳スキルは普段側近がいるため、ほとんど使う機会はないがその効果はチート級である。
たとえ意思疎通が難しい未開の蛮族であろうとも、お構いなしに細かいニュアンスまで完璧に翻訳してくれるのである。あるのだが――どうにも様子がおかしい。
「ん? この言語は現在のバージョンでは対応しておりません? こんなの初めて見るぞ」
翻訳はスキルレベル1であらゆる言語に対応できると聞いたことがある。にも関わらず対応してないってどゆこと?
不遜な輩に必死に抵抗を試みながら、嫌な予感がして一気にスキルレベルをマックスまで上げるも――結果は同じだった。
「この国の言語は現在のバージョンでは対応しておりません」
……え? つまり翻訳スキルが使えないってこと? それって、我輩結構詰んでね?
暴れてる間に、続々と赤く明滅する鉄の籠が周囲を取り囲むように止まると、同じ服装のむくつけき男たちが続々と集結し、転移したばかりの我輩は抵抗虚しく籠の中に押し込まれた。
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