第5話七夕の夜に。

「七夕祭りに行きませんか?」


それは1週間前にケイゴに言われたセリフ。毎年この時季はKAHOグループの夏祭りイベントの主催で忙しい。でも今年は熱中症予防の為規模を縮小したて行うことになり、学生チームはお留守番となった。そのため七夕祭りにお客さんとして参加できるのだ。


「うん!行きたい!初めてかも^_^楽しみにしてるね♪」


毎年スタッフとして動いている為、なかなかゆっくりお祭りを楽しんだ事が無い。心を踊らせるミラ。


しかし当日になってみると家の様子が違う。


「ケイゴ何かあったの?」


「あーそれが会場の装置にトラブルがあったみたいで、俺が行かなくちゃならなくなって。」


「そうなんだ!最悪あとから行くからケイゴはお仕事頑張って!」


「…はい。すみません。できるだけ早く済ませて帰って来ますから、一緒に行きましょうね!」


そう言って出て行ったケイゴだが、全く帰って来ず時間になってしまった。


「お嬢様、ご準備はおわりましたか?」


「うん、今行く!」



***



会場は楽しそうな人たちの声で賑わっている。そこの一角にくたくたになったケイゴを発見する。ミラはゆっくり近づき、ケイゴに声をかける。


「お疲れ様。」


イスに座っていたケイゴが見上げる。そして息を飲む。そこには黒地に金魚や花が描かれている着物を着て髪を結ったミラがいた。


(か、カワイイ!)


「浴衣似合ってますね。」


「ありがとう。ケイゴ疲れたでしょ?中で少し休ませて貰ったら?」


「いえ、大丈夫です!一緒に周りましょう。」


「本当に大丈夫?」


ミラは心配そうに顔を覗く。


「本当に大丈夫です。あっちにお嬢の好きな唐揚げとたこ焼きのお店もありましたよ!たこ焼きは大阪の方をお招きして作ってもらってるので、美味しいって評判です!」


「わー!食べたい!お腹すいたし行こう!」


「ケイゴ様!ぜひ食べて行って下さい。お連れ様も。」


ケイゴが色々買ってくれるが、どのお店でも同じ様な声を掛けられる。


「…お連れ様。どっちかと言うと俺の方がお連れ様なのに。早く公表したいですね。」


ケイゴは少し不満気だ。


「私は気にしないよ!ケイゴが会社の為に一生懸命働いてくれてて、みんな認めてるんだから!」


「ですがーー」


ケイゴが言いかけた言葉をたこ焼きで塞ぐミラ。


(お嬢!その串間接キス…。)


普通にキスもいっぱいしていると言うのに、紅くなるケイゴ。それに気づかないミラはニコニコ「美味しいでしょ!」なんて自慢している。


「お嬢、灯籠作りましょう!」


「うん!」


和紙の部分に模様や願い事を描いたり、切り絵を貼ったりする。ミラは黒い紙で3何の人型を切り貼る。2人は大人1人は子供で3人で手を繋ぐ様にした。そして満月も切って貼る。その他は元々用意されている物でデコレーションしていく。


「できたぁー!」


「じゃぁ飾りにいきましょう!」


灯籠を天の川に見立てて置き、お願い事をする。先にたくさんの人が灯籠を置いてくれている為、まるで天の川が地上に落ちて来たかの様になっている。


「天の川を挟んだ青い光の灯篭がベガ、反対側の白い光がアルタイルです。実際には両方とも白く見えるんですけどね。ベガは青白いと言われているんで、わかり易く青にしました。」


「ケイゴは星にも詳しいんだね。」


この灯篭達も、当然ケイゴの提案だ。


「小学生の時の夏休みの宿題で星を調べましたので、それをそのままアイディアとして使っただけですよ。」


(夏休みの自由研究って、ちゃんとやった人には身につくんだな…。)


灯篭の天の川を渡す橋の上から眺める。


「綺麗ね。」


「はい。そうですね。…灯篭の、さっきの3人は何を作ったんですか?」


ミラは少し驚いた顔をして紅くなる。ケイゴの方を恥ずかしくて目を見れない。


「秘密!」


(私とケイゴと赤ちゃんですなんて、言えない!)


ピカ!ドーン!!!


光る空、轟く音。


「今年も始まりましたね。」


「うん!キレイだね!」


KAHOが所有している広場であるこの場所は、毎年近くの河原で行われる花火大会を観るのにベストポジションと言わざるを得ない。そこに七夕祭りをぶつけてもらい花火鑑賞をするという、KAHOの悪どさが出ているお祭りだ。その代わりKAHOの関係者だけではなく一般客も入れており、多くの地元の方も来てくれるお祭りとなっている。


プルルルル


ケイゴのスマホが鳴る。


『はい、亜月です。』


『そろそろ準備してくれ。お嬢も連れて来て。』


『はい。』


「お嬢、仕事の時間です。」


「はい。」


今日のミラの仕事は七夕の再現だ。生演奏を背に天の川にかかる橋を渡り、牽牛と会い抱き合う。ただそれだけだが、気持ちが入ってしまうのは相手がケイゴだけだからだろうか。


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